「金か命か」ロシアへのエネルギー投資で日本が迫られる選択

 ウクライナに侵攻したロシアに欧米各国が厳しい経済制裁を科す中で、ロシアから化石燃料を一定輸入している日本のエネルギー安全保障が議論になっている。分かったようで分かりづらい「エネルギー安全保障」の真の意味とは? そして、日本はロシアに対してどんなエネルギー戦略をとるべきなのか。米シンクタンク「CSIS(戦略国際問題研究所)」の客員研究員を務めるなど、国際政治にも詳しい日本エネルギー経済研究所の伊藤庄一研究主幹に聞いた。【聞き手・岡大介】

日本も無縁ではいられない
 ――日本は電力や都市ガスに使われる液化天然ガス(LNG)の全輸入量の8・4%(2020年度)をロシアに頼っています。ウクライナ侵攻でこれまで以上に「エネルギー安全保障」が注目されています。

 ◆一口に「エネルギー安全保障」と言いますが、実は二つの観点があります。一つは、エネルギー市場の安定を目指す「エネルギー『の』安全保障」。もう一つは、軍事・外交を含めた安全保障の中でエネルギー戦略を考える「エネルギー『と』安全保障」です。この二つは連立方程式のように絡み合っており、その時々で優先度も変わります。

 ――ウクライナ侵攻でその二つのバランスはどうなったのでしょうか。

 ◆今は最悪の場合、核兵器の使用もあり得るという状況で、人類史上最高レベルで緊張が高まっていると思います。欧米は当初、交渉を模索する考えでしたが、プーチン露大統領はもうまともな交渉相手ではないとして、自分たちにも「痛み」が伴うことを覚悟してでも厳しい経済制裁を科し、短期決戦を目指す方針に転じています。一種の賭けともいえ、危険ではありますが、欧米は覚悟を決めています。主要7カ国(G7)の一員であり、米国に次ぐ経済大国である日本も無縁ではいられません。

見立てが外れたロシア
 ――エネルギー事情は各国さまざまです。原油や天然ガスを産出する米英はロシア産原油の禁輸を打ち出しましたが、ロシアへの依存度が高いドイツなどの欧州連合(EU)や日本はそこまで踏み切れていません。

 ◆ただ、欧米は制裁を強化する方向は一致して示しています。ドイツもロシアから天然ガスを運ぶ海底パイプライン「ノルド・ストリーム2」の認可手続きを停止しました。EUは22年中に天然ガス輸入を3分の2削減する方針です。プーチン氏側は、もっと欧米の足並みが乱れると甘く見ていましたが、現状、その見立ては外れています。

 ――欧米をそこまで結束させたのは何でしょうか。

 ◆ウクライナは第一次、第二次世界大戦のいずれでも要衝として各陣営が戦った場所です。とりわけ欧州各国にとって、一番センシティブ(敏感)な場所に想像を絶する形でロシア軍が侵攻したことへの恐怖は極めて大きい。ポーランドなどの周辺国も、難民受け入れや主要国への制裁強化呼びかけなどに必死になっています。

台湾有事でどうなる
 ――日本はサハリンの石油天然ガスプロジェクトや北極海のLNG事業に官民で参画していますが、「エネルギー安定供給」を理由に撤退などには慎重です。

 ◆調達先の多様化や価格が大事だというのは、エネルギー市場だけを見れば「模範解答」です。ただ、安全保障という観点ではどうか。…(以下有料版で, 残り1443文字)

毎日新聞 2022/3/25 07:00(最終更新 3/25 07:00) 有料記事 2762文字
https://mainichi.jp/articles/20220324/k00/00m/020/264000c
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