ロシア軍が侵攻を続けるウクライナの国営原子力企業「エネルゴアトム」は3月31日、北部チェルノブイリ原発周辺を制圧していた露軍部隊が一部を残して立ち去ったことを明らかにした。首都キーウ(キエフ)郊外でも約700台の軍用車両が北部へ移動。東部方面での攻勢に向けた部隊再編の一環とみられる。

 エネルゴアトムによると、チェルノブイリ原発や周辺の都市から露軍の車列が北のベラルーシ国境へ出発したことが確認された。露軍は1986年に事故のあった原発周辺の立ち入り制限区域内の「最も汚染された」地域で防御施設や塹壕(ざんごう)を構築していたといい、エネルゴアトムは「占領者(露軍)は相当量の被ばくをしていた。反乱や脱走の動きも出ていた」と指摘している。

首都キーウ周辺は「相当数」残る
 ウクライナ軍によると、キーウ北方でも31日未明に露軍の車列がベラルーシ国境に向かうのが確認された。ベラルーシ領内にいる露軍部隊も鉄道でロシアに戻る動きが出ており、ウクライナ東部での攻勢に向けた再編とみられるという。ただ、キーウ周辺にはまだ「相当数」の部隊が残っているといい、周辺では砲撃などが続いている。露国防省が活動を縮小するとした北部チェルニヒウ周辺でも戦闘が続いており、31日には住民避難の支援に向かったボランティアの車列が攻撃され、1人が死亡した。

 親露派武装勢力が一部を実効支配するウクライナ東部では激しい戦闘が続いている。ウクライナ軍参謀本部は露軍が北東部ハリコフ州や東部ルガンスク、ドネツク両州で制圧地域の拡大を狙っていると指摘。露国防省は31日、ルガンスク州のセベロドネツクなどで攻勢に出ていることを明らかにした。

 一方、ウクライナのベレシチューク副首相は31日、露軍が包囲する南東部マリウポリから新たに約7万5000人が避難に成功したことを明らかにした。ただ、市内にはまだ約10万人の住民が取り残されているという。露国防省は1日も避難のために戦闘を一時停止する「人道回廊」を開くとしており、現地には45台のバスが向かっている。ベレシチューク氏は市内で露軍による女性や少女への性犯罪が広がっているとする避難者の証言も紹介し、「全世界がこのことを知るべきだ」とも訴えた。

 ロイター通信によると、イタリアのドラギ首相は31日、前日に実施した電話協議でプーチン露大統領が「戦闘停止への条件はまだ整っていない」との認識を示したことを明かし、「ウクライナのゼレンスキー大統領はいつも戦闘停止を望んでいるが、問題はロシアが平和を望む条件が見いだせるかどうか。今のところ(露側に)そのような要望は見られない」と話した。【ロンドン横山三加子】

毎日新聞 2022/4/1 06:17(最終更新 4/1 06:29) 1109文字
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