北朝鮮による拉致問題を政権の最重要課題に掲げてきた安倍晋三元首相が4月9日、福井県の小浜市文化会館で同市の拉致被害者、地村保志さん(66)と対談した。地村さんは「私が帰国して20年。日朝両政府の話し合いが再開されるようお願いしたい」と要望。安倍氏は「決して諦めず、(北朝鮮に残された日本人を)必ず取り返す決意で全力を尽くす」と応じた。

 対談は小浜商工会議所の創立70周年記念式典の中で行われた。

⇒安倍氏「拉致解決へ何でもしたい」

 安倍氏は2002年9月、平壌(ピョンヤン)で初めて開かれた日朝首脳会談に官房副長官として同行。同10月、地村さんら5人が帰国した際には羽田空港で出迎えた。当時、地村さんの子ども3人は北朝鮮に残されたままで、同11月には地村さんの自宅を訪問。「(子どもたちの帰国は)政府が責任を持ってやる」と述べた。04年5月、子どもたちは日本で地村さんと再会した。

 地村さんは対談で「多くの支援で社会復帰でき、60歳定年を迎えることができた」と述べ、現在は県内の小中学校を回り、自身の経験を伝えていることを報告した。拉致問題の風化を懸念し、「北朝鮮への対応は困難だと思うが、日朝の政府が一つのテーブルで話し合いを再開し、(拉致問題を)進展させてほしい」と早期解決を求めた。

 安倍氏は「空港で地村さんらを出迎えたとき、(拉致被害者の)横田めぐみさんの父、滋さん(故人)が記録にとどめるために、涙をこぼしながら、カメラのシャッターを切っていた。(それを見て)私の使命は終わらないと固く決意した。帰国を果たせず申し訳ない思い」と語った。

 その上で、「最大の軍事力を持った米国をはじめ国際社会全体が(経済制裁などの)圧力をかけることで日朝の対話、外交が始まり、拉致問題を解決できると考えてきた」と明かし、「岸田文雄首相も、前提条件を付けずに金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記と話し合うと言っている。金総書記には応えてもらいたい」と述べた。

 対談には松崎晃治小浜市長、救う会福井の森本信二会長も参加し、安倍氏に日朝首脳会談の早期実現に向けた協力を求めた。

https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1529248