https://news.yahoo.co.jp/articles/242b452945a19897c173d115fa1387bbd607a5d9
(藤谷 昌敏:日本戦略研究フォーラム政策提言委員、元公安調査庁金沢公安調査事務所長)
 かつて旧ソ連時代、ソ連国家保安委員会「KGB」は、ソ連共産党と一体化し、国家そのものとも言って良いほどの権勢を誇った。
中国やその他の共産圏諸国の情報部を指導・支援し、一大情報帝国を築いた。

西側諸国、特に米英との秘密戦は熾烈を極め、KGBは米国の原爆開発計画(マンハッタン計画)を盗用した
ローゼンバーグ事件を引き起こし、「マグニフィセントファイブ」と言われる工作員たちを英国情報部の最高幹部クラスにまで浸透させることに成功した。
彼らがもたらした重大な機密情報がどれほどソ連に貢献したかは言うまでもない。
ソ連を米国と並び称されるほどの大帝国に育て上げ、冷戦の主役としたのはKGBだと言っても過言ではない。

■ FSB職員を追放、解雇
これほどの功績を残してきたKGBの後継機関であるロシア連邦保安庁「FSB」が、今回のウクライナ侵攻以降、
次々と不祥事を起こしている実態を見れば、その体たらくぶりには驚くばかりだ。
4月に入り、とうとうプーチンはロシア連邦保安庁FSBの情報部員150名を追放した。
英紙「TIMES」は「追放されたのは、プーチン大統領がFSB長官在任中に設立された『第5局』の職員。
ウクライナなど旧ソ連の構成国をロシアの勢力圏にとどめる役割を担う。
侵攻の失敗に対するプーチン大統領の怒りの表れで、スターリン的な大粛清だ」と報じている。
追放されたFSB職員らは、大部分が解雇され、幹部クラスの一部は逮捕されたようだ。

ロシア・メディア「メデューサ」によれば、3月、「第5局」の局長セルゲイ・ベセダ准将と副司令官アナトリー・ボリュク(運用情報部門責任者)らが
不正確な情報を報告した疑いで自宅軟禁され、刑務所に送られた。
「第5局」は、侵略に先立ってウクライナの政治・社会・経済情報をプーチンに直接、報告する義務があった。
だが、ベセダは、プーチンのご機嫌を損ねることを恐れて、「ウクライナは弱く、ネオナチでいっぱいであり、攻撃された場合は簡単にあきらめるだろう」など、
ウクライナ侵略に都合の良い情報を報告していた。
ベセダがFSBの特殊部隊を率いてウクライナで活動していた経緯から、プーチンはベセダらの情報にかなりの信頼を置いていたとみられる。
ベセダらは、破壊活動や工作資金に割り当てられた資金の不正使用や、不十分で不正確な情報を故意に提供した容疑をかけられているという。

■ FSB「第5局」とは
FSBは、KGBの対外諜報活動を担当していた第1総局がロシア対外情報庁「SVR」として分割されたのを機に、防諜活動を主とする組織として独立した。
プーチンが1998年から約1年間、FSBの長官に任命された際、FSBの権限拡大に力を入れ、海外でも諜報活動を実施できるように新たな担当局を設置した。
それがFSBの「第5局」である。正式には「運用情報・国際関係局」(the Operational Information and International Relations Service)と呼ばれている。
だが、実際にはプーチンのFSB長官就任前から特別チームが編成されており、旧ソ連領における諜報活動は行われていた。
それをプーチンが事後的に認めたに過ぎない。

「第5局」の目立った活動といえば、ベラルーシ、モルドバなどにおける地方選挙で親露派の候補者を支援する活動を行っていたことぐらいだが、
ウクライナは特別な諜報対象と位置付けられており、ウクライナ政府・軍・情報機関などへの浸透工作や欺瞞工作を積極的に行っていた。
その欺瞞工作の例としては、ウクライナとトルクメニスタンの離間を図るために
「ウクライナの情報機関がトルクメニスタンの反体制派に秘密裏に資金を提供していた」とする偽造文書を公表したことなどがある。

ウクライナ侵攻後、FSB内部からと思われる情報漏洩事件が相次いでおり、FSBには様々な問題と混乱が生じているとみられる。

■ FSB内部から告発の手紙が漏洩

※続きはソースで