2022.06.06
著者 : オトナンサー編集部
アドバイザー : 山口明雄(やまぐち・あきお)

役所や企業が損害賠償請求などの民事訴訟を起こされたとき、「訴状が届いていないのでコメントできない」とだけコメントするのが定番です。本当に届いていないのでしょうか。

 役所や企業が損害賠償請求などの民事訴訟を起こされたとき、マスコミから取材されると、「訴状が届いていないのでコメントできない」とだけ回答するのが定番です。こう回答する際、訴状は本当に届いていないのでしょうか。それとも“定番”の回答をしているのでしょうか。仮に届いていないとしても、自分たちの主張もできるのになぜ、口をつぐむのでしょうか。広報コンサルタントの山口明雄さんに聞きました。





訴状の審査後、被告に送達

Q.民事訴訟で訴えられた側が「訴状が届いていないのでコメントできない」と話す場合、実際に届いていないのでしょうか。それとも、“定番”となった回答をしているのでしょうか。

山口さん「訴えられた側(被告側)がマスコミから、提訴に関するコメントを求められた時点で、訴状を実際に受け取っていることはまずありません。

訴える側(原告側)が、提訴したことを世に知ってもらいたい場合、訴状を裁判所に提出した後、間を置かずに記者発表をすることが多いです。このタイミングが、ニュースとなる可能性が一番高いからです。

しかし、裁判所は訴状を受け取った後、審査をしてから被告に送達します。被告に届くのは訴状の提出から数週間後です。マスコミからの取材で、訴訟の事実を初めて知る被告側も少なくないのです」

Q.裁判に至るまでには通常、何らかのトラブルがあり、当事者間でやりとりがあった末に話がまとまらず、片方が裁判所に訴えるというケースが多いと思います。仮に訴状が届いていないとしても、トラブルの内容が分かっていれば、自分たちの側の主張をすることはできると思うのですが、なぜ何も言わないのでしょうか。

山口さん「1つ目の理由は、マスコミを通して反論したり議論したりすれば、ニュースが必然的に大きくなっていくので、それを避けたい思いがあると考えられます。

2つ目は、裁判への影響の懸念です。例えば、原告側をさらに刺激し、かたくなにするかもしれません。法廷での戦略を明かしてしまうことになる可能性もあります。

3つ目は、原告が訴状で何を求めているかは実際のところ、訴状を読まない限り詳細は分かりません。想像でコメントするのは得策ではありません」

Q.「訴状が届いていないのでコメントできない」とだけ報道されると、「紋切り型の対応」と取られて、印象が悪くなる可能性もあります。訴状が届いていないことを前提に、考えうる対応はあるでしょうか。

山口さん「ケース・バイ・ケースですが、定番回答に付け加えることで、いんぎん無礼な印象を薄められそうな文言はあると思います。例えば、『突然提訴されて戸惑っています』『相手方が求めていることは現時点で分かりませんが、引き続き話し合いを行いたいと思います』などです。

ちなみに、『訴状が届いていない』ではなく、『訴状を見ていないのでコメントできない』は『届いているけど、まだ見ていない』と読者や視聴者に誤解され、『提訴は一大事だろう? さっさと読めよ』『読んだくせに、あんなこと言っている』などと思われたり、勘繰られたりするかもしれません。この文言は使わない方が賢明です。

『訴訟された』というニュースがもたらすかもしれないイメージダウンに直接対応する広報活動には、思い当たる事例がありません。SNSなどを通して主張し、世論を味方につけようとする戦略もあるかもしれません。

しかし、提訴されると、決着がつくのは法廷です。炎上を招くかもしれない活動をするよりは、裁判に専念した方がよいと私は思います」

     ===== 後略 =====
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