衆院選挙区の新たな区割り案の勧告は、長期政権を見据える岸田文雄首相(自民党総裁)の選挙戦略に影響する可能性がある。次の衆院選で「10増10減」が適用されれば、自民が強固な地盤を持つ地方の選挙区で議席を失う恐れがある一方、議席が増える都市部は浮動票が勝敗を左右する傾向が強いためだ。首相はこうした情勢変化を踏まえながら、令和7年秋の衆院議員任期までに解散時期を探ることになる。

首相は16日、官邸で記者団の取材に応じ、定数減の地域で候補調整が必要となることに関し、「党としてさまざまな体制整備をしていかなければいけない」と述べた。


首相にとって目下の課題は22日公示、7月10日投開票の参院選の勝利だ。だが、周辺は「次の衆院選に向け、10増10減の影響を考えていかなくてはいけない」と語る。

定数が減る見込みの10県のうち、滋賀、岡山、山口、愛媛の4県は自民が選挙区の議席を独占し、宮城と和歌山、広島の3県についても過半数の議席を確保している。地方は自民を支持する業界団体などが集票力を発揮しやすいからだ。

一方、定数増が見込まれる5都県も今は自民が過半数の議席を押さえる。ただ、都市部は浮動票が多く、無党派層や野党支持層も目立つ。自民関係者は「都市部は〝風〟が吹きやすく、政権批判が強まれば一気に揺り戻しが起きる」と危機感を募らせる。


小泉純一郎首相(当時)が郵政民営化を掲げた平成17年衆院選は〝小泉旋風〟で自民が圧勝した。だが、4年後の21年衆院選はリーマンショック後の景気悪化などで自民には逆風が吹き、政権交代を余儀なくされた。

現状、岸田政権の支持率は好調を維持するが、今後、国民生活に直結する物価高などで対応を誤れば急落する恐れもある。

さらに、定数減の選挙区の候補調整は各派閥や党重鎮らの思惑もからみ、第4派閥会長で党内基盤も盤石ではない首相としては難しい判断を迫られる。


首相が参院選を乗り切っても令和6年秋には党総裁の、7年秋には衆院議員の任期満了が控えている。首相は総裁任期中の実現を目指す憲法改正のスケジュールも視野に入れつつ、解散戦略を探ることになる。(田村龍彦)

産経新聞 2022/6/16 21:25
https://www.sankei.com/article/20220616-BGOYKOZEXNJ3HDGNNJK45VYPJY/