福岡市中央区の大型商業施設で2020年8月、客の女性(当時21歳)が殺害された事件で、殺人罪などに問われた少年(17)の裁判員裁判の初公判が6日、福岡地裁で開かれる。少年側は起訴事実を認めた上で「再犯を防ぐには少年院での治療が必要」と主張する方針で、保護処分か刑事罰かが争点となる。事件当時15歳の少年が検察官送致(逆送)され、公開の裁判が開かれるのは異例。


◆共感性欠如 
起訴状などでは、少年は20年8月28日夜、「MARK IS(マークイズ) 福岡ももち」で包丁を盗み、1階の女子トイレで、客の女性を包丁で多数回刺して殺害するなどしたとしている。

 少年については有罪の場合、少年法の規定により、刑事罰以外に少年院送致などの保護処分が相当とする家裁移送を選択できる。少年の責任能力について、弁護側、検察側の双方に争いはないが、関係者によると、少年は起訴後の心理鑑定で、他者との共感性を欠き、家族から受けた虐待が事件に影響したとの結果が出ている。弁護側は「少年はいずれ必ず社会に戻る。問題改善には、適切な治療や教育が必要」として、医師らが専門的治療を行う第3種少年院(旧医療少年院)への送致が妥当とする保護処分を求めるという。これに対し検察側は、犯行は悪質だとして刑事罰を求めるとみられる。

◆施設抜け出し
 関係者によると、少年は離婚した母親に引き取られ、幼少期から周囲に暴力を振るうなどして、病院や児童自立支援施設などを転々とした。施設職員への頭突きで第3種少年院に送致された後、別の少年院に移され、目立った問題行動は見られなかったため仮退院。しかし、受け入れ先がなく、福岡県内の更生保護施設に入り、同施設を抜け出して、仮退院2日後に事件を起こしたとされる。

 少年は客の女性と面識はなく、逮捕当時、「わいせつ目的で声をかけ、抵抗されたので刺した」などと供述。少年の出身地を管轄する鹿児島家裁で審判が行われた。同家裁は昨年1月、少年の暴力性や共感性の欠如は根深く、矯正教育に前向きに取り組んでいなかったと指摘し、逆送を決定。事件は福岡地検に移されて起訴された。

◆逆送は1件
 最高裁によると、10~19年の10年間で、14、15歳の少年が「殺人」で家裁送致されたケースは14件。このうち逆送されたのは、15年に横浜市で、男子高校生(当時15歳)が母親と祖母を刺殺した事件の1件だけで、横浜地裁で裁判員裁判が開かれた。同地裁は「少年院で長期的、専門的な教育を行うのが効果的」と判断し、家裁移送とした。

https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20220705-OYTNT50070/