三股智子

毎日新聞 2022/7/12 11:00(最終更新 7/12 14:53)

 地球上の生物の半数近くを占めるともいわれる寄生生物。その中には、さまざまな手法で宿主(しゅくしゅ)を操り、自分の暮らしやすさを追求する不思議な生き物がいる。ちょっとグロテスクなその姿に迫る。

 川や池に落ちたカマキリのお尻から、にょろにょろと黒っぽく細長いものが出てくることがある。これはカマキリの内臓ではなく「ハリガネムシ」という寄生虫だ。

 ハリガネムシは水中でふ化し、まずユスリカなどの水生昆虫に寄生する。宿主が羽化して水から飛び出し、カマキリなどの陸生昆虫に食べられると、それを終宿主(しゅうしゅくしゅ)として体内で成長する。終宿主が水に落ちると腹から脱出し、水草などに産卵する。

 では、なぜ寄生されたカマキリは入水するのか。ハリガネムシに操られていると考えられてきたが、メカニズムは100年以上謎だった。仕組みの一部を解明したのが、佐藤拓哉・京都大准教授らのチームだ。

 ハリガネムシの終宿主は、水面からの反射光に引き寄せられて入水することが先行研究でわかっていた。水面の反射光は、横方向だけに振動する「水平偏光」をする特徴がある。釣りに使う偏光サングラスは、水平偏光だけをカットし、水の中を見られるようにしている。

 チームは、寄生カマキリに通常の光と水平偏光を見せ、水平偏光に引き寄せられることを実験で確認した。水平偏光を強く反射する池と、ほとんど反射しない池では、強く反射する池に寄生カマキリが次々と飛び込んだ。

 佐藤さんの別の実験によると、水中に落ちた陸生昆虫の9割がハリガネムシに寄生されており、陸生昆虫は渓流魚が年間に食べる餌の6割を占めていた。入水を防ぐと、渓流魚は代わりに水生昆虫を食べる量が増え、水生昆虫の餌である藻類が増えることもわかった。

 「ハリガネムシが寄生した虫の入水が集中する季節は、魚にとってはごちそうタイム。繁殖期前に栄養を蓄えることができます」と佐藤さん。小さな寄生生物が、森林と河川の二つの生態系をつなぐ大きな役割を果たしているのだ。

https://mainichi.jp/articles/20220711/k00/00m/040/118000c