田中良紹ジャーナリスト
8/1(月) 23:41

 7月28日に北海道テレビが放送した伊達忠一前参議院議長の発言は衝撃的だった。安倍元総理が旧統一教会の組織票の取りまとめを一手に引き受けている様子が生々しく語られたからだ。
 伊達前議長は北海道で臨床検査技師を務めていたが、北海道議会議員を経て2001年に参議院議員に初当選した。参議院国対委員長や参議院幹事長を務めた後、2016年に参議院議長に選出され、2019年の参議院選挙には出馬せず政界を引退した。
 その伊達前議長は2016年の参議院選挙に、長野県で臨床検査技師をしていた宮島喜文氏を日本臨床衛生検査技師会の組織内候補として立候補させた。しかし組織票が十分でなかったため安倍元総理と面会し、旧統一教会票を回してもらうよう依頼した。
 すると安倍元総理は「わかりました。そしたらちょっと頼んでアレ(支援)しましょう」と言ってくれた。結果、宮島候補は当選した。ところが今年の参議院選挙で宮島候補が自民党の公認を得ていたにもかかわらず、安倍元総理から「悪いけど勘弁してくれ。井上をアレ(支援)する」と言われ、宮島氏は公認を辞退し、安倍元総理の元首席秘書官であった井上義行氏が旧統一教会の支援を受けることになったのである。
 伊達前議長は2019年7月に政界を引退した後の10月、旧統一教会関連団体「天宙平和連合(UPF)」の会合に来賓として出席、翌20年にも2月と8月に旧統一教会のイベントに参加し、今年2月には関連団体がソウルで開いた会合でもオンラインで演説を行った。宮島氏の当選のお礼として参加したと伊達前議長は語っている。
 安倍元総理は2013年の参議院選挙には、産経新聞社の政治部長であった北村経夫氏を立候補させ、旧統一教会の支援で当選させ、16年の宮島氏の次の19年には再び北村氏を旧統一教会の支援で当選させた。
 そして今年の参議院選挙では宮島氏の支援を断り、かつての秘書官である井上氏に旧統一教会の支援を回したのである。そのため宮島氏は出馬断念を余儀なくされた。
 伊達前議長の話やこうした経緯を見ると、安倍元総理は旧統一教会の支援をいわばポケットマネーのように意のままにできるのだ。そして旧統一教会だけでなく、安倍元総理には「日本会議」や全国の神社の元締めである神社本庁もバックにいると言われてきた。
 「日本会議」は宗教団体ではないが、イデオロギー集団として固い集票マシーンとなる。また日本には約8万の神社が存在すると言われ、5万軒と言われるコンビニの数を上回る。それを束ねているのが神社本庁でこちらも集票マシーンになる。
 このように見てくると安倍元総理は、自民党の集票マシーンとして固い宗教とイデオロギー分野での「総元締め」ではなかったかと思えてくるのである。
 私が初めて安倍元総理に会ったのは、まだ当選2回の「社労族」と呼ばれていた新人議員の時代である。「社労族」とは社会福祉や社会保障政策を専門にする議員で、当時の厚生省や労働省と渡り合った。安倍元総理は福祉を専門にする議員としてスタートした。
 当時の私はCS放送で「国会TV」というチャンネルを運営し、昼間は国会審議を中継、夜は国会議員をスタジオに呼んで、視聴者に質問させる生番組を放送していた。毎夜、大物から新人まで次々に議員を招いた中に安倍氏もいた。
 「社労族」として社会保障政策について話を聞いたのだが、真面目一方の話し方で政治家らしくなく、記憶に残る言葉のない、印象薄い議員だった。それは小泉元総理が安倍元総理を後継者に抜擢してからも続いた。
 直情径行一本で練れた感じがしない。なぜ小泉元総理が自分の後継者に選んだのか不思議だった。小泉元総理は「拉致問題」で国民に人気があったからだと言い、それ以外には「気後れしないところを評価した」と言った。
 確かにトランプ前米大統領とのゴルフを見ても、相手とは比べようがないほど下手なのに、まったく気後れせずにプレイしていたのはある種の才能だと思う。しかし安倍元総理が第一次政権で、自民党から除名された郵政民営化反対議員を復党させたことで小泉元総理は激怒し、2人の関係は表には見せないが微妙なものになった。
https://news.yahoo.co.jp/byline/tanakayoshitsugu/20220801-00308391