ポストセブン2022.09.06 07:00
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■撮り鉄トラブル解消に撮影スポットを整備
こうした取り組みをしていた津和野町だが、2020年に入って“SLやまぐち号”を牽引する蒸気機関車が故障するというアクシデントに見舞われる。当初は代替の蒸気機関車を借りることで運行は継続されたが、それも2021年からはできなくなった。

本来、“SLやまぐち号”が運転されなくなれば、沿線に撮り鉄が押し寄せることはなくなる。それにも関わらず、以前より撮り鉄が問題視されているという。なぜか?

「蒸気機関車が故障したことで“SLやまぐち号”の代替で、ディーゼル機関車が牽引する”DLやまぐち号”が運転されるようになりました。今しか”DLやまぐち号”は撮れません“SLやまぐち号”よりも珍しいということから、これまで以上に撮り鉄が殺到したのです」(同)

2022年に蒸気機関車の修理が終わり、再び”SLやまぐち号”は運転を再開。しかし、今年の5月にSLから破損が発見される。そのため、再び”DLやまぐち号”が運転されることになり、撮り鉄も増えることになった。

“やまぐち号”の運転区間は、新山口駅―津和野駅間の約62.9キロメートルもある。それだけ長大な区間を走るなら、撮り鉄が殺到しても一か所に固まらずにバラけるはず。バラけるのであれば、それほど撮り鉄が道路を占拠することはなく、迷惑を及ぶすような行為にはならないと思う人もいるかもしれない。

ところが津和野町には、本門前(ほんもんぜん)踏切という鉄道ファンには有名な“SLやまぐち号”を撮る絶好のスポットがある。本門前踏切は視界を遮る構造物がなく、津和野駅を発車したSLが坂道を駆け上がってくる登り勾配なので、SLが煙をモクモクと上げる。本門前踏切は、そんな迫力あるシーンを撮影できるのだ。

こうした撮り鉄に絶好のロケーションは数少なく、そうした場所は撮り鉄の間で”お立ち台”と呼ばれる。”お立ち台”は、撮り鉄間で激しい争奪戦が繰り広げられる。

「本門前踏切には、SL運行時に50人前後のファンが集まります。DL運行になってからは、それまでよりも増えて70人程度になっています。SL時代から足繁く通うファンは、周辺の状況を理解しているので、マナーを守っている人は多いと思います。他方、DL目当てのファンは、そうした状況を把握していません。そのため、狭い町道を塞いで地元住民とのトラブルが発生しています。その対策として、町は線路沿いの休耕田を借り、今年8月から新しい撮り鉄スポットを用意しました。休耕田は草が生い茂っていたので、撮影できるように草刈りなどの手入れもしました」(同)

休耕田に整備された撮り鉄スポットは、線路より低い場所にある。そのため、本門前踏切と比べて写真映えしない。休耕田を整備しても、本門前踏切に固まる撮り鉄を分散する効果があるのかは今のところ未知数だ。それでも津和野町は押し寄せる撮り鉄に対して、涙ぐましいほど手厚い対応を重ねている。

一方、津和野へと押しかけた撮り鉄たちは津和野を観光したり飲食店に立ち寄ったり、はたまた土産品を買って帰るなどの経済貢献をほとんどしない。津和野町には源氏巻という銘菓がある。または駅の近くには飲食店やカラオケ店もある。

それらの土産品を購入したり、飲食店・カラオケ店を利用するというだけでも地元に経済的な恩恵をもたらす。そうした貢献を重ねることで、地元民から“招かざる客”と見られる向きは薄れるだろう。

しかし、“やまぐち号”を目当てにしている撮り鉄たちが、地元に金銭的な還元をすることはほとんどない。なぜなら本門前踏切は津和野駅のそばにあるが、そこで”やまぐち号”を撮った後すぐに新山口駅側にある撮り鉄スポットへ移動してしまうからだ。次の場所へと移動するのは、一刻を争う時間との戦いでもある。撮り逃しは絶対に避けたいし、ほかの撮り鉄とのポジション争いもある。土産品の購入やカラオケ店で休憩といった時間的な余裕はない。

撮り鉄が押しかけて傍若無人なふるまいをするのは、津和野町に限った話ではない。全国各地の有名撮影地が抱える問題となっている。従来、地方自治体は住民たちの生活を守ることを第一にしている。津和野町のような撮り鉄に理解を示し、無料駐車場や撮り鉄スポットを整備する自治体は珍しいケースといえる。

自治体・地元住民と鉄道会社、そして撮り鉄が共存共栄できる良好な関係を築くことはできるだろうか?

※長文の為前半部略