2022年度の地域別最低賃金(時給)の改定額が、熊本、宮崎、鹿児島の3県でも出そろった。いずれも853円で、時給方式となった02年度以降、32円増は最大の上げ幅。10月にも発効するが、新型コロナ禍などで経営が苦しい使用者からは「負担が重い」と悲鳴が上がる一方、労働者には「物価上昇や地域格差に対応できていない」との不満も。暮らしや経済への影響について3県で声を聴いた。【一宮俊介、宗岡敬介、野呂賢治】

 最低賃金は全労働者に適用される時給の下限で、労使の代表らでつくる中央最低賃金審議会(中賃)の目安に基づき、各都道府県の地方審議会で毎年、改定額を決める。中賃は今年、3県での引き上げ額の目安を30円とし、熊本は8月5日、宮崎と鹿児島は同10日に審議会が32円増を各労働局長に答申した。

 2年前と比べ60円の増額で、宮崎市中央通のギョーザ店の男性マネジャー(39)は「深夜手当を付けると1000円を超える。新型コロナで客足は約3分の1に減っており、うちのような客単価が低い店は、客の回転数を上げないと厳しい」と嘆く。

 一方、審議会で5人の使用者委員の反対の声が届かず、公益委員と労働者委員の計9人が32円増に賛成した鹿児島でも、労働者の顔は晴れない。

 時給950円の居酒屋でアルバイトする鹿児島市の大学1年、相澤光汰朗さん(19)は「800円台の時給で1人暮らしは厳しく、バイトは時給などを見て決めた。東京では1100円の友達もいるが、鹿児島は物価が安いとは感じず、都会と時給を合わせてほしい」と訴える。

 実際に地域格差はいまだ大きい。最も高い東京は1072円で、3県とは219円の差だが、差の縮小はこの2年で計1円。今回の3県の最低賃金は沖縄や佐賀など7県と並んで全国で最も低く、労働人口の流出にもつながりかねない。

 また総務省が発表した7月の全国消費者物価指数では、総合指数(コア指数)が11カ月連続で上昇。今後も続けば、「外的要因による物価高が賃上げ分を吸収する。物価上昇分を正しく価格に反映できないと好循環は生まれない」(労組関係者)との声も上がる。

 一方、最低賃金が適用されない人もいる。フリーランスで働く人は「個人事業主」として企業と業務委託契約を結ぶためだ。

 熊本市中央区のマッサージ店で働く女性(45)もその一人。客が1時間利用した場合、店側と女性で売り上げを折半する契約だが、客が来ないと拘束時間だけが過ぎる。「店に4時間いても、1時間の客1人だけなら時給換算で400円だ。最低賃金の底上げが、私たちの『時給』に波及すれば……」と願う。

 東京商工リサーチ宮崎支店の勢越淳一支店長は「新型コロナ禍のダメージに加え、物価高で先行きが見通せず、最低賃金引き上げは企業に打撃だ。このまま経済の回復がなければ、将来的には雇用の維持に支障が出ざるを得ない」と指摘する。

毎日新聞 2022/9/7 14:00(最終更新 9/7 14:00) 1187文字
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