国民に詳細を明かさない「敵基地攻撃」の議論 政府有識者会合「要旨」 17回分ひとまとめ、発言者も不明

 敵基地攻撃能力の保有の是非が焦点となる「国家安全保障戦略」など3文書の改定に向けた有識者会合に関し、政府は今月要旨を公表したが、計17回の会合のやりとりがひとまとめにされ、誰がいつどんな発言をしたのか特定できない。政府側の考え方を示す発言も記載していない。戦後の安保政策の大転換につながる課題にもかかわらず、国民の目が届かないところで議論が進んでおり、専門家は「検討過程の信頼性が損なわれ、国民の支持は得られない」と批判している。(川田篤志)

◆どの意見を掲載するかは政府側の裁量
 有識者会合は1月から7月まで17回、非公開で実施し、事後の内容説明もなかった。今月1日に公表された「要旨」は計47ページで、政府の問題意識に対し、有識者の発言は「専守防衛」「防衛関係費」といったテーマごとに分類されて「主な意見」が箇条書きで記されている。元政府高官や自衛隊元幹部ら計52人の有識者が招かれたが、誰がどの会合で発言したかは全く分からない。
 事務局の国家安全保障局によると、要旨を作成する際に同様の意見は1つにまとめたり、有識者に確認して表現を修正したりしている。どの意見を掲載するかは政府側の裁量に任され、1人の主張がいくつも箇条書きにされていた部分もあった。敵基地攻撃能力の保有や防衛費の大幅増を支持する意見が多数を占めた。
◆識者「政府に都合良くピックアップ」を懸念
 2013年に現行の国家安保戦略をまとめた際の有識者会議では、政府側出席者の発言も記載された議事要旨が毎回作成され、会合の数日後に公表されていた。(略)
 国家安全保障局の担当者は「今回の会合は論点整理が目的で(戦略文書のたたき台を作成した)13年の有識者会議とは位置付けが異なる」と主張する。要旨で発言者を特定しない理由は「有識者と忌憚きたんなく意見交換するため」とし、議事概要を公開せず政府側発言も記載しないのは「検討過程だから」と説明。政府が今後どのように議論を進めるかも検討中として明らかにしていない。
 NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は、不透明な要旨について「政府にとって都合の良い意見だけをピックアップしている可能性もある」と指摘。「説明責任を果たさないと、政策決定の正当性が損なわれることになる。国民全般に支持されない安保政策は外交的にも弱みになる」と話す。

東京新聞 2022年9月8日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/200682