西日本新聞 9/12(月) 10:31

 無意識にまばたきやせき払いを繰り返す、手足など体が動く、声が出る-。チック症は幼少期に発症しやすい発達障害の一つだ。多くは年齢を重ねると自然に治まるが、慢性的に続いて日常生活に支障を来せば「トゥレット症候群」と診断される。発症する子どもは少なくないが、社会にあまり知られていないため誤解されることも多く、当事者や家族は生きづらさを感じている。 (新西ましほ)

 福岡市の女児(8)は2年前、空せきを繰り返すようになった。半年ほどすると、勉強や遊びなど何かに集中している間はふんふんと鼻を鳴らし、くつろいでいると肩がびくっと上下するようになった。

 母親(43)が小児科に連れて行くと、チック症と診断された。「癖の一種と思ってゆったり見守ってください」。だが心配する母親は情報を求めてインターネットで検索した。「原因不明」「ストレスや不安で悪化」などの記事や書き込みが目に入る。「妹が生まれて無理や我慢をさせているのか」「叱り方が悪いのか」。自分の子育てを悔やんで思い悩むようになった。

 2人で過ごす時間を意識して作り、少しでも負担を軽くしようと習い事を減らした。大きな声で叱るのもやめた。体の緊張を取り除く体操も取り入れた。

 しばらくして鼻や肩の症状は治まったが、今度は顎を動かす、喉を鳴らすといった症状が現れた。

 学校で友達にからかわれて嫌な思いをしていないか。中学受験を考えていたが、ストレスで症状が悪化しないか。今も思い悩む。

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 チック症状は体が動く「運動チック」と声や音が出る「音声チック」があり、本人の意思に反して発作的に起きる。子どもの5~10人に1人が経験するとされ、ほとんどが一過性という。運動、音声チックの両方が1年以上続くとトゥレット症候群と診断される。

 福岡大病院脳神経外科の森下登史診療准教授によると、原因は脳内で働く神経伝達物質のドーパミンの異常と考えられ、育て方や家庭環境との関連はない。ただ、ストレスで症状が悪化する恐れはあり、チックの症状をやめるよう本人を注意したり、叱ったりすることは逆効果だという。

 治療法は確立されていないが、脳の発達を促すことで症状が出にくくなると考えられる。そのため早寝早起きを心がけ、日中は体を動かすなど生活リズムを整えることが大切だ。

 日常生活に支障がある場合は、薬物療法や、症状に対する受け取り方や考え方を変えて気持ちを楽にする認知行動療法を行う。さらに重症の場合は手術で脳に電極を埋め込み、微弱な電流で刺激する方法もある。

症状知って「優しい無視」を 「当事者会」悩みや治療法共有
 長くトゥレット症候群に苦しむ神奈川県在住の谷謙太朗さん(43)は3年前、「トゥレット当事者会」を立ち上げた。子どもたちが自分のように苦労せず、少しでも生きやすくなるために-。会が運営する四つのオンラインコミュニティーには現在、延べ千人以上が参加。互いに悩みを打ち明け、治療法などの情報を共有している。

 谷さんのチック症が現れたのは3歳か4歳の頃。まばたきや口の周りをなめ始め、中学生になると大声で「アッ」と叫んだり跳びはねたりするようになった。声や物音で近所から苦情が来たこともある。症状を我慢するあまり体調を崩し、何度も救急搬送された。

 勉強に集中できず、大学進学を諦めた。就職したがチック症状のせいで長続きせず、アルバイトを転々とした。そのうち症状は悪化し、口内をかんだり頭を壁に打ち付けたりする自傷的な症状も加わった。

 30代半ばになって認知行動療法の一つ「CBIT(シービット)」と出合った。チック症状が起きる直前のむずむずするような感覚に気付いて症状を抑える方法を習得する訓練を行ったりする。おかげである程度抑制できるようになった。

 「もっと早くいろいろな情報に接していれば違う人生があったかもしれない」。会社員として働く傍ら、当事者会を設立。オンラインコミュニティーの運営のほか、治療法の勉強会を催したり各地で交流会を開いたり、チック症やトゥレット症候群への誤解や偏見をなくす活動にも取り組む。

 「電車や街の中で突然、体が動いたり声が出たりする人を見るとびっくりするかもしれない。でも本人は白い目で見られたり、心ない言葉をかけられたりするとひどく傷つく。症状を知って『優しい無視』をしてほしい」

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