9月も半ば、暑さもやわらぎ秋の気配になってきました。読書の秋、図書館は多くの人にとって身近な存在ではないでしょうか。私は取材の下調べでよく利用しますが、特に入手が難しい古い資料を読めるのは図書館あってこそ、と感じます。今回はそんな「知の拠点」を支える職員の訴えを取り上げます。【デジタル編集本部・牧野宏美】

 画面の向こうに、少し緊張した様子の、まっすぐな目をした女性が現れた。地方の市立図書館に勤める、滝本アサさん(仮名)。1990年代生まれの20代だ。滝本さんは8月上旬、ネット上である署名活動を始め、大きな反響を呼んだ。

 「私は最低賃金+40円・手取り9万8千円で働く非正規図書館員です。図書館の今を知り、未来のために署名をいただけませんか?」

 署名文はこんな書き出しで、雇用が不安定で低賃金の非正規図書館員の待遇改善を求める内容だ。年収150万円程度という自身の待遇や切り詰めた暮らしぶりも明かし、ネット交流サービス(SNS)で拡散。賛同者は約5万人に上る。

 私は約3年前、就職氷河期世代の今をリポートする連載の取材で、非正規の学校図書館司書に話を聞いた。

 東京都内の中学校で働く当時42歳の女性は、子どもと触れあえる仕事にやりがいは感じるものの、生活が苦しく、一時保育士のアルバイトを掛け持ちした。ストレスによる心の不調も抱え、「何のために生きているのか。正直、40歳で人生閉じてもいいと思っていた」と漏らした。

 署名活動を知ってその時感じた不条理とやるせなさを思い出し、変わらない現状にため息が出た。ただ、滝本さんの文面からは怒りやパワーが感じられた。なぜ今声を上げたのか、聞きたくなった。

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毎日新聞 2022/9/16 06:00(最終更新 9/16 06:00) 有料記事 1788文字
https://mainichi.jp/articles/20220915/k00/00m/040/089000c