2022年11月30日 16時00分

 水源が乏しい中東地域で、多国間を流れる国際河川の水を巡って、上流と下流の国で対立が起きている。上流国がダムを造ったことで下流国へ流れる水の量が減少し、一部では湿地が干上がるなどの実害が出ている。中東では水は国の存亡を左右する「生命線」。地域紛争に発展する要因にもなりかねない。(イラク南部チバイッシュなどで、蜘手美鶴)



◆「エデンの園」…湿地だったのに砂ぼこり

 干上がった湿地に、行き場をなくした木製のボートが取り残されていた。「この半年で水位が2メートルも減った。湿地の漁師は移住を余儀なくされている」。イラク南部チバイッシュの環境活動家ラード・アルアサディさん(31)がそう言って地面を蹴ると、湿地から砂ぼこりが舞い上がった。
 同湿地では、3年ほど前から渇水の影響が顕著になっている。古代文明を育んだチグリス川とユーフラテス川の下流に位置し、本来は緑と水が豊かな地域。旧約聖書にある「エデンの園」の地ともいわれるが、気候変動による降雨量の減少に加え、湿地に注ぐユーフラテス川の水量が減ったことが大きな原因という。

 約900キロ先のイラク北部でも、チグリス川にあるダム湖に異変が起きている。国内最大モスルダムでは、今年6月から4カ月間で水位が約4.5メートル減少。北部ドホークの別のダム湖では、昨年秋以降、37年前に湖底に沈んだ村の一部が姿を現し、地元の家族連れらが珍しがってピクニックに訪れている。
 昨年冬の雨期を経ても水位は戻らず、ダム管理事務所の技師バダル・ハッジさん(63)は「ダム湖の水が減れば、チグリス川に流入する水量もそれだけ減る。極めて深刻な事態だ」と懸念している。




◆上流にダム22基と17の発電所
https://www.tokyo-np.co.jp/article/216828