もしそれが「本当」なら、とんでもないことだ。安倍晋三元首相の銃撃事件を巡り、捜査機関がメディアに意図的に“ガセネタ”を流しているというのだ。

 殺人容疑で逮捕された山上徹也容疑者(42)の弁護団が13日、奈良県警と奈良地検に対し、報道機関への捜査情報についての抗議文を送った。弁護側は「恣意的な」情報提供をやめるよう捜査機関に求めている。

 抗議のきっかけとなったのが、大阪拘置所で鑑定留置中の山上容疑者の発言を報じた一部メディアの記事だ。

〈安倍晋三元首相の銃撃事件で、殺人容疑で送検され鑑定留置中の山上徹也容疑者(42)が「母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の用事に行って授業参観に来なかった」などと、精神鑑定の担当医に少年期の不満を漏らしていることが7日、関係者への取材で分かった。担当医はこうした事情を確認するため留置期間を延長し、鑑定を続けているとみられる〉

 山上容疑者の母親が旧統一教会にのめり込み、家庭を崩壊させたことが、安倍銃撃の動機になったことは、すでに警察の捜査で明らかになっている。それと精神鑑定の期間延長がどう結びつくのか。

■山上容疑者本人は発言内容を否定

 抗議文を提出した山上容疑者の代理人、小城達弁護士はこう言う。

「本人に確認しましたが、担当医にそんなことは言っていません。事実とは違います。捜査機関が何らかの世論を形成しようとしている疑いもありますし、彼自身のプライバシーの問題にもかかわります。なぜ、このタイミングで、どういう流れからこうなったのか、理解しがたい」

 鑑定留置は当初、11月29日まで約4カ月の予定だったが、地検が延長を申し入れ、奈良簡裁が来年2月6日までの延長を決定。これを不服とした弁護側が「あまりに長すぎ、必要性や相当性を欠いた違法なもの」と奈良地裁に準抗告を申し立てたところ、1月10日までに短縮されたという経緯がある。

 奈良地検は留置期間の延長について、担当医の申し出を受けて申請したと説明しているが、それにも疑いの目が向けられている。

「担当医は11月末までの期限を前にすでに鑑定を終え、『聞くべきことはすべて聞いた』と話していたそうです。そのため、周囲も11月末で鑑定留置が終了することを前提に、準備を進めていた。延長が決まって一番驚いているのは、担当医ではないか。検察側にまんまと利用された可能性があります」(山上容疑者の関係者)

 前出の小城氏もこう懸念を示す。

「裁判の前にいろいろな情報がこういう形で流れるのは、予断排除の原則からも問題です。法廷で出された証拠に基づいて判断されなければなりません。情報があふれ返っている中、その一つに寄与するような形で捜査機関が情報を流す。しかも誤った内容が報道されれば、今後、さまざまな問題が生じます」

 弁護側が「事実と違う」と抗議したガセネタを流してまで、長期にわたる身体拘束を正当化しようとする捜査機関の狙いは何なのか。

https://news.yahoo.co.jp/articles/e4f667e85406726b4a9a635a1df72b2f48749b39