読売新聞 2022/12/26 13:14
https://www.yomiuri.co.jp/national/20221226-OYT1T50090/2/

高齢者らが金をだまし取られる特殊詐欺の被害が止まらない。兵庫県警は取り締まりや啓発を強化。
金融機関やコンビニ店などに協力を求めているが、なかなか効果が上がらず、新たに、現金自動預け払い機(ATM)設置場所近くの民家や商店にも、被害に遭いそうな高齢者らを見かけたら通報してもらう取り組みを始めた。「警察の力だけでは限界があると認めざるをえない。市民の力を借りてでも、なんとか被害を食い止めたい」とする。(川本一喬)

パン店の近くには、金融機関の無人ATMコーナーがある。ここから複数の特殊詐欺の被害者が金を振り込み、だまし取られたことが確認されており、県警はパン店の従業員に目配りを依頼することにした。

 取り組みは8月に始めた「特殊詐欺水際阻止協力の店(家)」。10月末現在、金融機関やATMコーナーの近くで1728か所の登録があり、3件の被害を未然に防いだ。県警は「人の目ほど頼りになるものはない。ATMの近くにどれだけ人の目を増やせるかが鍵だ」とする。

警察庁によると、全国の特殊詐欺被害は2017年の1万8212件をピークに減少に転じたが、21年は4年ぶりに増加して1万4498件(総額282億円)。「医療費が戻る」などとうそを言って金を振り込ませる還付金詐欺は4004件で、過去10年間で最多だった。特殊詐欺被害全体では、22年も11月末現在で1万5597件(総額316億円)に上る。

他県でも、踏み込んだ対策を講じている。島根県警大田署は7月、管内のコンビニ10店と協力。架空請求詐欺に悪用される恐れが高い電子マネーカードを、3万円分以上購入しようとする客がいれば、すべて通報してもらう試みを始めた。

 店員が詐欺を疑い、「だまされているのでは」と指摘をしても、「ちがう」と怒って聞く耳を持たない客も多い。同署は、警察官の到着まで客を引き留めるため、待ち時間の買い物代を300円まで負担するユニークな「戦法」を編み出した。これまで6件の通報があり、うち1件の被害を阻止。「店員から詐欺被害を疑われても、腹を立てる人が減った」と効果を強調する。

 福岡県警は20年11月から、詐欺の電話があったと市民から通報を受けると、周辺の金融機関に警戒を依頼し始めた。金が振り込まれる直前に被害を防いだケースが20年の37件から21年は198件と5倍以上に急増した。県警は「職場が詐欺被害の現場になるかもしれない、防がなければという金融機関側の意識が高まる」とする。

 立正大の小宮信夫教授(犯罪学)は「特殊詐欺は手口が巧妙化し、注意を呼びかける啓発活動だけでは効果が望めなくなってきた。警察は、被害者や声をかける人がトラブルに遭わないように十分に配慮しながら、地域ぐるみで取り組む詐欺対策を普及させる必要がある」と指摘する。