東京新聞2022年12月29日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/222602

 ウクライナ上空にロシア軍の無人機(ドローン)が現れ、市民を殺し電力インフラを破壊した—。米東部コネティカット州に住むクリストファー・アーロン(42)はそんな報道を見るたびやるせなさが込み上げる。「こんなことをしたって憎しみの種をまくだけだ」

◆運ばれた棺は、標的のテロリストより多かった

 20代のころ、アーロンは正義感に燃える若者だった。きっかけは2001年の米中枢同時テロ。第2次世界大戦で祖国のために戦った祖父のようになりたいと、米中央情報局(CIA)のドローン情報分析官になった。米国がアフガニスタンで対テロ戦に突入する中、06年に南部バージニア州の対テロ空中分析センターに配属され、テロ組織幹部らを攻撃するドローンの画像分析を任された。

 窓のない部屋でモニターの前に座り、1日12時間のシフト制で1万1000キロ以上離れたアフガンの映像を見続けた。標的を見つけると、司令官が攻撃の是非を決め、オペレーターが手元のジョイスティックでミサイルを発射する。当初は直撃に喜び同僚とハイタッチを交わすこともあったが、高揚感は続かなかった。

 テロリストがミサイルで吹き飛んだ翌日、標的より多い数の棺ひつぎが運ばれて行くのを何度もモニターで見た。1人を殺すたび、近くにいた家族や罪のない市民に犠牲が出た。自分は安全な場所にいて、仕事が終われば食料品店でパンや牛乳を買って家に帰る。次第に「何かがおかしい」という感覚が抜けなくなった。

◆戦場にいなくても突然の吐き気

 08年、民間軍事会社に移って派遣されたアフガンでは、米軍のドローン攻撃は増えたのに戦況は泥沼化していた。何のために自分は戦ったのか、作戦は失敗だったのでは—。しばらくして再びドローン関連の仕事を依頼された時、突然の吐き気や原因不明の発熱に襲われた。戦場で非人間的な経験をした兵士と同じ心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状だった。

 カナダの平和研究団体「プロジェクト・プラウシェアーズ」の上席研究員ブランカ・マリヤンによると、ドローンを扱う兵士の研究ではアーロンのように、直接戦場にいなくてもPTSDになる事例が複数報告されている。

◆直接撃たれるよりも強まる憎しみ
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