東京都多摩地域の井戸水から発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS)が検出された問題で、都が汚染によって取水を停止した井戸が11の浄水施設(7市)の34本に上ることが、都水道局への取材で分かった。3施設の5本は判明していたが、対象範囲が拡大した。一部浄水施設では約15年前から高濃度で検出されており、市民団体は「都は汚染源を早く特定し、対策をとってほしい」と訴える。(松島京太)
 有機フッ素化合物 PFOSやPFOAなど多数あり、総称はPFAS(ピーファス)。水や油をはじく性質があり、泡消火剤や塗料、フライパンのコーティングなどに幅広く使われてきた。環境中でほとんど分解されず、人や動物の体内に蓄積されやすい。がんや心疾患による死亡リスク上昇との関連や、出生体重が減少する恐れが指摘され、近年、国際的に使用の禁止や規制が進む。日本の水道水などの暫定目標値はPFOSとPFOAの合計が1リットル当たり50ナノグラム。

 井戸水の汚染源は不明だが、米軍横田基地(福生市など)内で、長年にわたり大量のPFASを含む泡消火剤が土壌に漏出したと英国人ジャーナリストが報道し、関連が疑われている。神奈川県や沖縄県内の米軍基地内や周辺でも、高濃度での検出が相次いで発覚している。
 国は健康被害を避けるため、暫定目標値としてPFASの検出濃度を水道水1リットル当たり50ナノグラム以下と設定している。都は、住宅の蛇口から出る水道水「給水栓水」について、この値を超える恐れのある浄水施設で、井戸からの取水を停止している。

 都水道局によると、2021年5月までに停止したのは、立川市や府中市など7市の施設11カ所で計34本。このうち、府中武蔵台浄水所(府中市)などの3カ所計5本は、都が19年6月に取水を停止したことを発表していたが、その後の取材で、さらに広範囲の井戸で停止していたことが分かった。

◆停止まで高濃度で推移していた井戸もあった
 一部の井戸では汚染が長期間にわたることも判明した。取水を停止した11施設のうち7施設では、都の05年以降の調査で、一時的に高濃度で検出されるケースもあった。とりわけ、府中武蔵台では06年に1リットル当たり86ナノグラムを検出し、取水を停止するまで高濃度で推移していた。
 都水道局が多摩地域で管理する水源の井戸は計278本。取水を続ける井戸でも高濃度のPFASが検出される場所があるが、低濃度の井戸水や河川水と混ぜると国の暫定目標値を下回るため、そのまま利用されている。

 多摩地域の汚染状況を調べるため住民の大規模な血液検査を実施している市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」の根木山幸夫さん(75)は「停止した井戸が増えたというのは、それだけ汚染範囲が広いということ。都は多摩地域の飲み水を元に戻すために早く対策をしてほしい」と訴える。
 都水道局技術指導課の谷本知之課長は「今の対策が万全とは思っていない。井戸水への対策はコストもかかるので、効率的な手法を取れるように国のPFAS規制の議論を見守っていきたい」と話している。
 東京都多摩地域の水道水 給水人口は約396万人。全体の配水量の1?2割程度を井戸で取水する地下水が占め、残りは河川水を使用している。地域内に点在する浄水施設は、規模が大きい順に「浄水所」「給水所」「配水所」の名称となる。独自の水源井戸がある場合や、配水の中継地点としての機能のみを持つ場合など浄水施設によって役割は異なる。

東京新聞 2023年1月3日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/223202