コロナ禍や物価高を受けて全国の自治体で相次ぐ学校給食の無償化についての考えを聞くため、関東地方の政令市、県庁所在地、東京都特別区の計31区市にアンケートしたところ、4区市が新年度にも実施する検討を行っていることが分かった。(松尾博史)
 アンケートの方法 2022年12月、東京23区と関東6県の県庁所在地、政令市の計31区市に文書で行い、各教育委員会の担当者らから回答を得た。各自治体が設置する小中学校の給食費について、所得制限や子どもの人数などの条件を設けず、保護者負担をゼロにする制度の導入や検討の状況を尋ねた。選択肢と記述欄を設けた。

◆15区市が「予定はない」
 導入するかどうか「未定」を含めると、無償化について検討している区市が10を超えた一方で、15区市が財政問題などから「予定はない」と回答した。地域による温度差が浮き彫りとなり、今春の統一地方選では重要な争点となりそうだ。
 葛飾区が「導入を決定済み」と回答した。方針は昨年9月に発表している。「コロナ禍や物価高騰が続き家計の負担が増えている」ことを理由に挙げ、新年度予算案に関連費用を計上する準備を進めている。
 中央、品川区と水戸市は「導入に向けて前向きに検討している」とした。いずれも新年度にも始めることを視野に入れる。水戸市は中学校の給食費を無償化予定で「教育費などの負担が大きい中学生世帯の支援を優先する」とした。
 世田谷区は、最終方針は「未定」としながら「新年度に何らかの方法で無償化を実現できるよう検討している」と説明した。足立区も「早期実施に向けて、実施方法や財源も含めて検討中」とした。
 このほか台東区は、物価高対策で1月から「当面の間」無償化すると答えた。

◆財源が…国の対応求める声も
 「導入する予定はない」と回答した15区市では、「財政負担が大きすぎる」(江東区)「継続的な財源の確保が困難」(練馬区)など、10区市が財政への影響を理由に挙げた。
 自治体任せにするのではなく国による一律的な対応を求める意見も上がった。「平等に無償化を実現するためには、国や都による広域的な取り組みを検討するべきだ」(中野区)、「国の責任において無償化を実施するべきだ」(港区)などだ。
 衆院事務局によると、中野区や東京都三鷹市など全国の地方議会から、国による給食無償化の導入や、自治体への財政支援を求める意見書が100件以上提出されている。
◆岸田首相、国による無償化には慎重姿勢
 物価高騰などを背景に無償化や保護者負担を軽減する動きが各地で出ている。学校給食法は、給食提供のための設備や運営の経費は自治体、食材費は保護者が負担すると規定するが文部科学省によると「自治体が保護者を支援することを妨げるものではない」とされる。
 一方で岸田文雄首相は昨年5月の国会で、経済的に厳しい家庭の給食費はすでに免除しているとし「さらなる負担軽減については、各自治体において地域の実情に応じて検討いただく」と答弁、国による無償化には慎重な姿勢を示した。文科省の試算(2018年度実績で推計)では、全国で完全無償化した場合の費用は年間4386億円

◆公費でどこまで負担するべきか…悩む自治体
(略)アンケートにはさまざまな回答が寄せられた。文京区は「無償化には多額の費用を要する。まずは学校の増改築、外壁改修など、現状の課題の解消を優先的に進める」とした。
◆杉並区も「すぐに実現可能なものではない」(略)
 千葉工業大の福嶋尚子准教授(教育行政学)の話 無償化方針の有無にかかわらず、自治体の回答は「財政負担が課題」という点で共通している。家庭の経済事情で区別するのではなく、誰もが給食を無償で食べられ、子どもの権利が満たされる社会のほうが望ましい。無償化対象に条件を設ける場合、行政側に多くの事務作業が生じる。コロナ禍、物価高によって経済状況は急変しており、生活保護や就学援助をすぐに受けられない家庭が出てくる恐れもある。一律に無償化するほうが合理的でもある。
 法政大の白鳥浩教授(現代政治分析)の話 子どもの権利の観点から、住んでいる自治体の財政力などによって受けられるサービスが異なるのは好ましくなく、国が自治体と協力して無償化を図るべきだ。助成対象が徐々に拡大した医療費のように、給食無償化は地方自治に大きく関わるテーマであり、統一地方選で広く議論してほしい。一般的に、投票率の高い高齢者を意識した施策が実現されやすい傾向がある。日本の少子化は危機的な状況。子育て世代にとって、よりよい政策をいっそう考えてほしい。

東京新聞 2023年1月4日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/223327