それまで被収容者で新型コロナウイルス感染者が1人も出ていなかった富山刑務所(富山市)で昨秋、被収容者の約4割に達する急激な感染拡大が起きた。
塀に囲まれた特殊な空間では、気軽にアルコール消毒液を置けず、密にならざるを得ない。刑務所ならではの対策の難しさが浮き彫りになった。

「インフルエンザなど、ほかの感染症とは比べものにならない。想像以上の感染力だった」。
富山刑務所の石田岳史総務部長は、当時の様子をこう語る。

被収容者の感染者は2020、21年度はゼロだったが、22年度は10日現在で127人に達した。

最初に感染が確認されたのは、昨年10月11日だった。石田部長は「『うちはゼロでがんばっているね』と話していた。
感染者が出ることはやむを得ないが、『ここで食い止めよう』と必死だった」と振り返る。

それ以降、三つのフロアで〈1〉感染者〈2〉濃厚接触者〈3〉健康な人――を分け、隔離措置を実施した。
体調不良の申告も徹底させた。だが、感染拡大は収まらず、11月30日までほぼ毎日のように感染者が出続け、この51日間だけで
感染者は計119人に膨らんだ。これが刑務所にとっての“第1波”だった。

ここまで感染が拡大した背景には、刑務所という施設の特殊性がある。

最たるものが、アルコール消毒液の設置だ。商業施設や飲食店ではおなじみだが、刑務所内では状況が違う。
飲めば自傷行為につながり、容器は割れば鋭い破片が「凶器」にもなり、被収容者の手の届く場所には置けない。

ワクチン接種も一筋縄ではいかなかった。接種券は居住する市区町村が、住民票記載の住所に発送する。
刑務所には届けられず、刑務所には住所不定の者もいる。被収容者の接種態勢を整えるにも、自治体や保健所との折衝が必要だった。

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20230110-OYT1T50212/

昨秋に被収容者の約4割がコロナに感染した富山刑務所
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