スマートフォンを多用する50代以下の世代で、心身に不調をきたす人が増えている。SNS(交流サイト)を通じた情報収集・発信、ショッピング、ゲームや動画視聴などで「長時間利用が当たり前」という依存状態も珍しくない。診療の現場では、脳への負担増が原因で認知症に似た症状に陥る患者が増えており、スマホ依存のリスクを指摘する声が高まっている。

ここ10年で急増
認知症など脳機能に障害をきたした患者らを診療する「おくむらメモリークリニック」(岐阜県岐南町)の「もの忘れ外来」。従来、高齢患者が大半を占めてきたが、ここ10年ほどで急増しているのが30~50代の若年患者だ。

若年患者の特徴として、「人や物の名前が出てこなくなった」「簡単な計算さえできなくなった」など、日常的に深刻な物忘れの症状に悩まされているとの訴えが多い。

こうした症状はアルツハイマー型認知症と似ているものの、MRI(磁気共鳴画像装置)などの検査では、異常はみられない。生活歴の聞き取りのほか、認知機能テストなども用いて調べていくと、脳機能の低下がみてとれるという。

同クリニック理事長で脳神経外科医の奥村歩氏が原因として指摘するのは、スマホ依存による脳過労だ。

若年患者の多くは、SNSやゲームアプリなどを閲覧し続けるスマホのだらだら利用が常態化。常にスマホが手元にないと、「落ち着かない」「不安」など依存症ともいえる状態に陥っている患者が少なくない。その分、脳は絶えず膨大な情報にさらされ、大きな負担がかかっている状態と考えられるという。

脳のメンテナンスを
「脳は入ってきた情報を整理整頓し、記憶の棚から出力している。だが情報過多でその機能が追いつかなくなると、必要な情報をうまく取り出せなくなり、『ど忘れ』や『うっかりミス』といった〝スマホ認知症〟ともいえる症状が表れる」。奥村氏はこう話す。


スマホ認知症に陥ると、「1週間あれば完成していた書類がいつまでたっても満足できるレベルに達しない」「料理が手際よく作れなくなった」というように、段取りや計画に沿って物事を進める「遂行実行機能」が低下。コミュニケーション能力や企画力・創造力の低下なども表れる。

心身の状態をコントロールしている前頭葉の機能低下も起きるとされ、手足の痛み、動悸、めまいなどさまざまな体調不良にもつながる。突然怒り出す、泣き出すなど情緒が不安定となる人もいる。

こうした状態を放置しておくと「老年期に認知症となるリスクが大きくなる」と奥村氏。ただスマホ認知症は、脳過労で記憶の整理整頓に支障が出ている状態であり、生活習慣の改善で回復は可能だという。

重要になるのは、脳のメンテナンスだ。スマホから距離を置き、「ぼんやりする時間」を作ることで情報が整理され、脳機能の回復につながる。

さらに、一定のリズムで体を動かすことも脳機能の活性化に役立つ。具体的には、散歩やサイクリングといった運動のほか、料理や皿洗いといった家事仕事なども有効という。


奥村氏は「スマホは取り入れる情報の量と質、使い方に慎重にならなければ、〝脳の暴飲暴食〟につながりやすい側面がある」と指摘。「食事に気を使うのと同じように、脳の健康を意識した生活を心がけてほしい」と呼びかけている。

子供たちも注意
スマホの長時間利用が高校生以下の低年齢層の発達に及ぼす影響を懸念する声も出ている。

「脳トレ」で知られる東北大加齢医学研究所の川島隆太所長らは、仙台市の5~18歳の児童生徒224人を対象に3年間、脳の発達の様子をMRIで観察。スマホなどでインターネットを長時間使う子供たちの脳は、神経細胞が集積する「灰白質」や神経線維が集まる「白質」の体積があまり増えず、脳の発達に遅れがみられたという。

川島氏は「例えば中学3年生で考えたとき、スマホを全く使っていない生徒は中学3年生相当の脳を持っているのに対し、毎日頻繁に使っていた生徒の脳は小学6年生のままである可能性がある」と説明する。(略)
産経新聞 2023/1/15 06:00
https://www.sankei.com/article/20230115-EUWVQSN4NVJALFDI4BGMEI7XHM/