発達障害の人にはどんな共通点があるのか。認知神経科学者の井手正和さんは、脳の働きの違いから
感覚過敏や感覚鈍磨といった感覚の問題を抱えやすいと指摘する。たとえば『爪を噛む』といった行動は
発達障害が原因のおそれがあるという。井手さんの著書『発達障害の人には世界がどう見えているのか』
(SB新書)からお届けする――。

■発達障害の人が抱える「感覚」の苦しみ
感覚過敏、感覚鈍麻といった感覚の問題を抱えるASD者(自閉スペクトラム症)は、日常生活においてさまざまな
苦しみ・悩みを抱えています。
その苦しみの多くは、定型発達者からすれば理解するのが難しいものです。

例えば、「いつもと違った道を通るのが怖い」という感覚は、本人の自覚を伴う苦しみですが、「気になることがあると
そちらへの関心が強くなってしまう」という感覚は本人に自覚がないままに、結果として人間関係の悪化を招き
苦しみにつながってしまいます。
ここでは、感覚の問題から生じるASD者の苦しみについて解説します。

感覚の問題とは、
・感覚過敏……周囲の音や匂い、味覚、触覚など外部からの刺激が過剰に感じられ、激しい苦痛を伴って不快に感じられる状態
・感覚鈍麻……痛み、気温、体調不良などに関して鈍感である状態
の2つがあり、感覚過敏か感覚鈍麻かのどちらか一方ではなく、感覚過敏と感覚鈍麻が同居するASD者もいることをお伝えしてきました。

また、定型発達者がある程度の“リミッター”をかけて情報処理を行っているのに対し、ASD者が“リミッター”をかけずに
情報処理を行っている可能性があり、その要因は「脳の特性」によると考えられる――そのために取り込む刺激が過剰になる――ことも述べました。

では、この「感覚の問題」によって、日常生活などでどのような苦しみを感じているのでしょうか?
これまで研究に協力してくれたASD者の生の声を通して、ASD者への理解をより深めたいと思います。

■いつも同じ道を通らないと不安になる
――幼稚園からの帰り道。工事中のため、いつもの通園路は通れない。母親に「いつもの道は通れないんだって。
回り道して帰ろう」と促されたF君だが……。

F君:「いやだよ! いつもの道で帰りたい」
母親:「だから言ってるでしょ! あの先は工事をしているから通れないの!」
F君:「でも、いやなんだよ……」
母親:「そんなこと言ったって、通れないものは通れないの!」
F君:「怖いんだよ!」
母親:「何が怖いのよ? 脇道を少しだけ歩いて、その後またいつもの道に戻るだけじゃない?」
F君:「違う道を歩くなんて……」
母親:「ほんの少しだけでしょ? ほとんど違わないわよ」
F君:「それが全然違うんだよ……」
母親:「さあ、行くわよ(手を引っ張る)」(なにが違うっていうのよ? 言ってることの意味がわからないわ)
F君:「……」(いつもの世界と全然違う世界に行くなんて……怖くて、怖くてたまらないよ……)

「いつも同じ道を通りたい」の裏にある、不安と恐怖を想像するASDのお子さんなどによく見られる1つの傾向として
変化や変更を嫌うといったことが挙げられます。
その一例として「いつも同じ道を通りたがる。違う道を通るのを嫌がる」があります。
なぜそこまで嫌がるのか、その理由まではわからない定型発達者は多いかもしれません。
定型発達者であれば、「単に道が違うだけで問題なく目的地に到着することができる」と特に不安を感じることもないでしょう。

なぜ、「いつもと違う道」に不安を感じないのか?
敢えてわかりやすい言葉を使うならば、定型発達者は「ぼんやりと情報収集をしているから」です。
ここには脳にかかる負荷を減らそうとする“リミッター”の役割が関係しているかもしれません。

つづきはそーすで
ライブドアニュース(プレジデントオンライン)2023年2月17日 9時15分
https://news.livedoor.com/article/detail/23723829/