東京都狛江市の住宅で1月、住人の大塩衣与きぬよさん(90)が殺害された強盗殺人事件は
19日で発生から1カ月となる。重要参考人として男3人が浮上しているものの逮捕には至らず
ほかに複数の人物が関与した疑いもある。交流サイト(SNS)の闇バイトを通じて集まった「素人集団」
(警視庁幹部)とみられる実行役たち。フィリピンから発信されたとされる指示は事件前日に集中していた。(榊原大騎)

◆銀色のレンタカーがきっかけに
 「明日案件があります。狛江2時」「地下に金がある」「老人を殴れますか」
 捜査関係者によると、大塩さんが自宅地下1階で殺害される前日の1月18日、男らが使っていた疑いがある
スマートフォンには、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」のグループチャットでのやりとりが記録されていた。

 グループは立ち上がったばかりとみられ、それぞれの呼び名を確認し合うような場面もあった。グループを仕切っていた
アカウント名は「キム・ヨンジュン」で、発信元はフィリピン。同国から強制送還され、ニセ電話詐欺事件で逮捕された
渡辺優樹容疑者(38)らの関与が疑われている。
 重要参考人の浮上は、警視庁が事件翌日の20日、足立区で不審な銀色レンタカーを見つけたことがきっかけとなった。
車内には大塩さん宅にあった腕時計3本や血の付いた手袋が残っていたほか、後部座席にはスマホがあり、キムから
18日に「手袋と目出し帽を用意して」との指示が送られていた。
 警視庁がレンタカーの足跡をたどると、18日に足立区で借りられていたことが判明。神奈川県内で借りられていた
別の白色レンタカーを含めた2台が、この日に狛江の現場周辺の防犯カメラに写っていたことも分かった。

◆借金返済のため闇バイト「いつ家族に被害が及ぶか…」
 2台のレンタカーは19日午前、神奈川県内の駐車場の防犯カメラでも確認され、数人が車に乗り込む様子も写っていた。
大塩さんが殺害されたのは、直後の正午ごろとみられている。
 「キムという人物は『強盗に行くときは殺してもいい』と平気で言う」

 捜査関係者によると、昨年10月に稲城市で発生した強盗傷害事件で逮捕された男の1人は、こう供述。借金返済のために
闇バイトに応募したが、「本当に怖い組織に入ってしまった」とも口にしたという。
 男は闇バイトに応募するとテレグラムに誘導され、免許証の画像を送るよう要求された。「仕事」(犯罪行為)をする中で
知らない人物が自宅を訪ねてきたことがあり、「いつ家族に被害が及ぶか心配で指示に従っていた」とも語った。
 一連の広域強盗事件では、実行役が犯行現場ごとに離合集散を繰り返していたことがうかがえる。捜査関係者によると
狛江事件の重要参考人3人のうち、2人はすでに別の強盗事件で逮捕されている。

◆21年夏以降、14都府県で50件以上の手口似た事件
 警察庁によると、闇バイトで実行犯を募るなど手口が似た強盗や窃盗は2021年夏以降、14都府県で50件以上確認され
逮捕者は60人を超えた。
 狛江事件でついに死者を出す事態となり、警察当局は捜査を本格化した。捜査幹部は「指示役でも実行役でも
強盗をすれば必ず捕まることを示す。安易な気持ちで闇バイトに応募してはいけない」と警鐘を鳴らす。

東京新聞 2023年2月19日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/231986?rct=t_news