東日本大震災による東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の事故からまもなく12年。史上最悪レベルの原子力事故を経験しながら、政府はウクライナ危機などによるエネルギー不足を理由に原発回帰に政策を転換した。今夏までには処理水の海洋放出を目指すが、風評被害を恐れる地元漁業者らの反発は根強い。「この12年の努力が無駄になるのでは」。日本記者クラブ取材団に参加し、現地の声を聞いた。

廃炉に向け東電が最難関とするのが、事故で原子炉に溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しだ。少量でも高線量のため、ロボットによる内部調査をした。
高い線量や新型コロナウイルス禍に作業を阻まれ、目標の21年から遅れた。「耳かき1杯分ほど」(東電)の数グラムから始めるが、デブリの総量は約880トンとの推計も。内部に機器を入れるのに約10年かかった。政府は事故から廃炉完了までを30~40年と見込むが、道のりは遠い。

海の手前には灰色の「タンクの森」が広がっていた。千基を超える巨大タンク(高さ10メートル、直径10メートル、容量千トン)の処理水はもう一つの課題だ。高濃度の放射性物質を含む汚染水を「ALPS(多核種除去設備)」で処理した後の水をいう。核燃料の冷却水や、建屋に流れ込む地下水が放射性物質に触れて汚染水となり、処理水も1日平均100トンはたまる。
水は既に約132万トンに達し、あと5万トンしか空きがない。「今秋には計画容量に達する」と東電担当者。「満タンになれば処理ができなくなる」などの理由で政府は海洋放出を決めた。
海沿いのエリアでは海洋放出の工事が始まっていた。処理水をためる水槽が掘られ、その横から海底の岩盤を貫くトンネル(約1キロ)が途中までできている。
ただ、処理水には放射性物質トリチウム(三重水素)が残る。人体への影響は少ないとされ、東電も放出時のトリチウム濃度は国基準の40分の1未満-と説明するが、地元関係者らは風評被害を懸念する。

 昨秋、東電は対策として、処理水でヒラメ800匹やアワビの飼育を始めた。海水と、処理水を混ぜた海水に分けて、成育状況やトリチウム濃度を比較。担当者は「数値が安全性を示しても、安心をどう説明していくかだ」と語った。
(一部抜粋)

https://news.yahoo.co.jp/articles/41eade39f884d6c58b071d7fd66cadb734c212de