「ストッキング離れ」-。そんな言葉がSNSで話題となっているのが目に留まった。ストッキング・タイツの国内供給量(輸入品含む)は、実は全盛期の10分の1に激減している。ファッショントレンドや仕事服の変化の影響なのか。取材を進めると、時代の移ろいとともに女性も男性も、身に着けるものに対する意識や価値観が変わりつつあることが見えてきた。

◆全盛期は80年代

 日本靴下協会やメーカーによると、ストッキングとタイツの国内供給量は1980年代後半の10億足がピーク。しかし、2015年は3億1500万足、21年は1億4200万足にまで激減している。総務省の家計調査でも2人以上の世帯の年間支出額は01年の1255円から21年は282円と落ち込んだ。人口減少の一言では説明できないほど、消費が減った理由は何なのだろうか。

 大手メーカーアツギの井上優哉開発本部長は「86年に男女雇用機会均等法が施行されるなど、80年代は多くの女性が世の中に出てきていた。仕事の制服やマナーとして着用することも一般的だった」と語る。

 総務省労働力調査によると、働く女性の数は80年以降増えており、生産年齢人口(15~64歳)の22年12月の就業率は80年比で22ポイント上昇の72.5%だった。消費動向などを分析する野村総合研究所の松下東子氏は「働く女性の増加とストッキングの売り上げの減少は逆行しているように見えるが、2020年の女性雇用者を産業別に見ると、
約4人に1人は医療・福祉系で、卸売業・小売業や製造業が続く。働く女性の母数は増えている一方で、スーツを着てパンプスをはく職業ではない割合も多く、オフィス勤務の人でも服装のカジュアル化は進んでいる」と指摘する。

 また、大手メーカーグンゼの担当者によると、ファッショントレンドの変化も大きいという。「短い丈で足を見せるファッションだと売り上げは伸びるが、ここ数年は長い丈が流行している。靴下を合わせたり素足にサンダルをはいたりする人も多くなった」と背景を説明する。
さらに20年からは、新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけた。コロナ禍で外出機会が減り、21年は19年比でほぼ半減。グンゼの担当者は「テレワークとなり、身に着ける機会がなくなった上、冠婚葬祭や式典などフォーマルな場面が減った」ことが要因とみている。

◆ 「押し付けは嫌」

 消費者は実際どのように感じているのだろう。「ストッキング離れ」の話題をきっかけに、SNS上ではさまざまな意見が飛び交った。「足をきれいに見せてくれる」「傷を隠せる」と好んで着用する人がいる一方で、「伝線しやすい」「締め付けが嫌」など買い替えのコストや着用感について否定的な声も。このうち、仕事で着用している女性に話を聞いてみた。

 営業職の女性は新人の頃、かかととつま先だけを覆い、パンプスを履くと見えなくなるカバーソックスで出勤すると、先輩から「ストッキングをはきなさい」と注意を受けた。当初は「それが仕事に関係あるの?」と反発を感じたが、営業職として老若男女に接する立場だと説明され、「ストッキングをはいていないと常識がないと思う人もいる。初対面の人にマイナスのイメージを与えないためには仕方ないのかな」と感じている。

 仕事ではスーツスタイルが多い不動産業の女性。「足をきれいに見せてくれるので、好んで着用している」と話す。ただ、学生時代にアルバイトをしていたレストランでは制服がスカートで、ストッキングの着用も求められたが、費用は自腹だった。「今は自分の意思ではいているけれど、『ルールだからはかないとだめ』と押し付けられると嫌だった」と当時を振り返る。「今の職場でもはいていない人はいるが、それぞれ個人の事情があるので強要するべきじゃない」と語った。

(中略)

◆変わるファッション

 野村総研の松下氏は、「画一的なマナーや制度に従うよりも、個人の事情を尊重して物事を進めるべきだ、というのが社会的な正しさとして重視されるようになってきた」とし、ストッキングに限らず、ネクタイやスーツの需要減は自然な流れだったと指摘する。

 身に着けるものにも、従来の固定的な性別にとらわれない「ジェンダーフリー」の考え方が浸透し、おしゃれとしてネクタイを付ける女性や、防寒対策でタイツをはく男性も登場している。「『マナーだから着用すべき』とされてきた商品は、性別を問わない形や健康上のメリットなどの付加価値を見いだすことで、利用の幅が広がっていくのではないか」と話した。

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