>>57
それでも、大麻市場への投資熱は広がる一方だ。食品や化粧品各社は大麻関連ビジネスを次々と立ち上げている。海外の企業と提携して成分抽出を行う会社を設立したり、栽培から抽出・加工・製品開発まで一貫生産を手掛けたりする大企業も現れた。繁華街や駅の高架下など人通りの多い場所には、大麻成分入りの食品や飲料を売る店舗が相次いで開業し、「大麻クリニック」なる医療施設も誕生した。ペット用の大麻成分入り製品も新発売された。

解禁を押し進めたアヌティン副首相兼保健相は、大麻関連市場が向こう5年間で8割増の500億バーツ(約2000億円)規模に拡大していくとの見方を示している。すでに国内における大麻の栽培面積も1200haに広がった。大麻草を栽培するために国に登録した企業や個人は100人・団体を超えている。新たに開発された大麻成分入り食品や飲料も1500品以上に達した。

タイの大麻解禁の話題がこれほどにぎわうのは、5月上旬にも予定されている下院総選挙と密接に関係するからでもある。推進派のアヌティン副首相が党首を務めるタイ名誉党は、選挙での躍進を画策し、あわよくば首相の座をも狙う。一方、共に連立政権を組むタイ最古の政党民主党はジリ貧の党勢を立て直すため、今ごろになって反対を打ち出した。与党第一党の親軍政党国民国家の力党は世論の行方を見極めようと態度を明確にしていない。結果、連立与党内にあっても明確な方向性は打ち出せていない。

政界、財界、中小企業などさまざまな利害関係が交錯しながら投資熱だけは高まりを見せるタイの大麻市場。食品などへの普及が一段と進む中、迷走する状況が続いている。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)