Business Insider Japan Apr. 03, 2023, 08:15 AM 雨宮百子
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■3カ国語は当然。ベルギーで感じた欧州の「標準」
ベルギーにきて私が最初に直面したのは「劣等感」だ。勉強もそれなりに努力して、学生時代はIT企業でのインターンや離島でのボランティアなど、たくさんの経験もした。

社会人になってからは、編集者としてベストセラーをつくったり、経営学の修士号を働きながら取得したり、これでも「そこそこ」頑張ったと思う。

しかし、フランス語圏にあるベルギーの大学院で出会った同級生(現地のベルギー人の学生に加え、中東、アフリカなどの出身者)は日常的にフランス語を話し、英語も当然のように流暢に話す。学生たちの多くは日常的に3カ国語を話せる人間がゴロゴロいるのだ。

英語を話すことができれば、日常生活はなんとかなりはするものの、欧州における現地語の強さに驚いた。「英語を頑張らないと」とか言っている場合ではなかったのだ。

言語とは、単に伝わればいいだけではない。本質的に重要なのはコミュニケーションであって、どれだけ相手の国の言葉になじもうとするか、その姿勢が人間関係の円滑さをきめる。

ある授業で、面白い26歳の韓国人にあった。

彼はドイツの大学からベルギーに留学中で、長年日本に住んでいたため、日本語と韓国語が母国語レベルだ。また、ドイツ語と英語は独学で勉強し、流暢に話す。現在はイタリア語とフランス語を勉強中だといって、単語を沢山かいたアイパッドを見せてくれた。

「やっぱり現地の言葉を話せるだけで、距離ってぐっと縮まると思うんですよね」といいながら、目を輝かせる彼をみて、フランス語で心が折れそうになっていた自分を大いに反省した。

■20代女性の博士取得者に驚く
言語だけではない。修士以上の学位をもっている人もゴロゴロいる。仏語の授業で隣に座った留学生のイラン人女性は、経済関係の博士課程在籍者だった。

友人の紹介で出会ったベルギー人の警察官のパートナーである20代の女性は、科学分野の博士号取得者で、彼らと夕食を食べながら書籍の話をしていると「私の書いた本もみて!表紙のイラストは彼が書いてくれたのよ」と笑顔で本を渡された。見ると、それは製本された博士論文だった。

博士論文には難しそうな数式が並び、私には理解できなかったが、日本で20代女性の「博士」に会う機会がほとんどなかったので、驚いた。

OECDの“Overview of the education system (EAG 2022)”では、2020年のデータをもとに「日本の博士課程またはそれに準ずる課程に進学する女子学生の割合は、他のOECD加盟国やパートナー経済圏と比較して最も少ない部類に入る」と記載されており、日本は38カ国中最低ランクだった。

日本でも高校生や大学生のうちに博士課程に進む女性に出会う機会が数多くあれば、「そういう選択肢もありかも」と思う学生の数はもっと増えるはずだ。

■グローバルの「足切り」は修士以上
ちなみに、国連をはじめとする国際機関の多くは、採用の段階で「修士号以上取得者」と明記している。

欧州の大企業も修士号を持っていることを前提に採用を募集していることが多い。

日本の有名大学を出ても、多くの場合は名前すら認識されていないし、学部だとそもそも「足切り」。つまり、日本よりもはるかに「学歴主義」なのだ。

グローバルの頂点ともいえる、国際機関での実態はどうなっているのだろう。詳しく話を聞くために、スイスの国際機関で働く日本人の友人に連絡をとってみた。

「特に国際機関においては、博士、修士、学士の順に非常に学歴主義が強い。本当の意味での『即戦力』が求められているから。

日本だと博士号とかまで進むと就職に不利みたいな話も聞くせいか、35歳が上限の国際機関の若手人材プログラムでも、欧州の出身者は28~30歳が多い一方、日本人は33~35歳くらいが多い印象。

国際機関では上の役職になるほど学位が優位になる。修士号保持者は職務経験が10年ないと応募できないものでも、博士号保持者は2~3年で応募できるなど、長い目でみるとキャリアアップの近道になることもある」(スイスの国際機関で働く友人)

日本では修士課程に進む割合が少ない。科学技術・学術政策研究所の出す「学位取得者の国際比較」をみると、人口100万人当たりの学士号取得者数は、日本は2019年度4539人とドイツやフランスよりも多い。

しかし、修士になると日本は一気に低くなる。2008年度と各国最新年を比較すると、特に英国、フランス、ドイツの伸びは大きい一方で日本は横ばいだ。面白いのはドイツとフランスの学士取得者の低さだろう。これには背景がある。

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