広島県警科学捜査研究所(科捜研)の物理研究室研究員・多田野渉さん(32)が、証拠品を壊さず検査できる新たな手法の研究で、広島大大学院で博士号を取得した。県警の博士号取得者は8人目。「科学捜査の進歩に貢献できるよう、これからも頑張りたい」とさらなる研究に意欲を燃やしている。(中安瞳)


 多田野さんが取り組んだのは、事件現場に残された繊維片と、容疑者が所有する衣服や手袋の繊維を区別する「異同識別」の研究。これまでの手法では、繊維片を切り取るなどしなければならず、失敗すると貴重な証拠品を無駄にする恐れがあった。

 研究には、繊維の微細な構造を調べられるX線マイクロCT(コンピューター断層撮影法)の装置を使用。繊維の断面の形状や画像の明暗などを比べることで、繊維を切り取らずに異なる繊維を区別できることを証明した。

 府中町出身。中学から吹奏楽部でトランペットやホルンを吹いていたことから、高1の夏に音律や音階の本を読んだ。大好きな音楽が、物理や数学を基礎に成り立っていることに魅力を感じ、苦手だった物理の勉強にも力を入れるようになった。

 広島大理学部に進学後、「教える立場になって、物理を親しみやすいものにしたい」と中学・高校の理科の教員免許も取得。大学院で研究を深めるうち、「物理は世の中のあらゆる現象に関わっている。物理で社会に貢献したい」と科捜研を志望し、2016年に県警に入庁した。

 試料を壊さずに鑑定できる今回の研究が実れば、 冤罪えんざい などによる再審請求後も、試料の再鑑定がしやすくなる。そんな画期的技術への期待は高く、科捜研では捜査上の業務からは外れ、研究だけに集中させてくれた。物理研究室の横山忠尚室長は「全国の科捜研や法科学分野の先頭に立ち、研究を続けてほしい」とエールを送る。

 多田野さんは「非破壊の鑑定法を、繊維以外の試料でも試したい。実際に鑑定で使える信頼を得るため、国内外の学術雑誌に投稿し、世界の研究者らに認めてもらいたい」と話す。これからも研究の力で捜査を支えるつもりだ。

6/7(水) 12:00配信 読売新聞オンライン
https://news.yahoo.co.jp/articles/5719ad688ae775c858e0e868e9acb85b6dc611a7
博士号を取得した研究について説明する多田野さん(広島市中区で)
https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/06/20230607-OYO1I50001-1.jpg?type=ogp