人工呼吸器の設定変更やカテーテルの抜去といった医療行為の一部を、医師以外の職種が担う「タスクシフト(業務の移管)」が広がってきている。来年4月から始まる「医師の働き方改革」の柱の一つで、医師の労働時間を減らすための取り組みだ。医師の時間外労働に上限が設けられることで医療の水準が落ちないよう、チームで支えることが求められている。(足立菜摘、熊井洋美)

 7月下旬の午後。奈良県橿原市にある県立医科大病院の高度救命救急センターの集中治療室(ICU)。医師が、全身麻酔をかけて人工呼吸器を装着している敗血症の高齢男性から呼吸器を外す準備をしていた。

 口から入れていた管を抜いて、気管切開をしたのどの部分から管を入れ直した。様子を見ていた看護師の伊藤憲子さんが「外していってもいいですか」と医師に声をかけた。

医師の指示受け、人工呼吸器の調整
 伊藤さんは、これまで医師が担っていた医療行為の中で看護師にも認められた「特定医療行為」ができるように、厚生労働省指定の研修機関で研修を修了した「特定看護師」だ。

 医師が了解すると、伊藤さんは周囲のスタッフに「麻酔を止めて、これから自発呼吸に戻していきます」と伝えた。モニターに映る呼吸回数や息の量の変化を見ながら、呼吸器の酸素濃度や空気を送る回数を調整した。

 センターでは、伊藤さんを含め計5人の特定看護師が働く。2022年度に実施した特定行為は215件。持続的な血圧観察などのために動脈にチューブを留置する「動脈ライン確保」や、人工呼吸器の設定が中心だったという。

 センター長の福島英賢(ひでただ)教授は「夜勤帯に医師が休息をとりやすくなる。つきっきりで患者をみている看護師が処置をすると、医療の質が上がる面もある」とメリットを語る。

 現在、医師は日勤帯に7、8人、夜勤帯に3人が働いている。働き方改革で連続勤務が28時間までとされたことなどから、来年4月からは夜勤の3人が当直明けの日勤に入れなくなり、日勤の医師が単純計算で3人減る見込みだ。

■手術件数が増えた麻酔科…(以下有料版で,残り1296文字)

朝日新聞 2023年8月16日 7時00分
https://www.asahi.com/articles/ASR8G5TCTR7WUTFL00D.html?iref=comtop_7_03