「人権新時代」で展開した主な連載
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西日本新聞が2021年末から続ける長期企画「人権新時代」が6日、本年度の新聞協会賞に選ばれた。日本の人権運動の「原点」である全国水平社の創立100年の節目に、取材班は部落問題をはじめとするさまざまな人権問題に向き合ってきた。「すべての人が尊重される社会をつくるために」。その思いを胸に、これからも書き続けていく決意をかみしめている。

▶「人権新時代」に新聞協会賞
▶「人権新時代」の記事一覧

部落問題はかつて、今では想像し難いほど社会に深く根を下ろしていた。同じ人間として扱われないような不条理な現実を変えたのは、当事者を中心とした地域の地道な活動だった。1980~81年の本紙企画「君よ太陽に語れ-差別と人権を考える」に、その一端が描かれている。

今から約60年前。福岡県のある被差別部落で「識字学級」が始まった。差別と貧困で満足に就学できなかった住民たちはミカン箱を机に、ひらがなの読み書きから学んだ。

最初の教科書は、指導を頼まれた中学教師が画用紙に描いた動物や野菜の絵。「これは何?」と教師が尋ねると、住民たちは「れんこーん」と答え、一字ずつ習っていく。「わしゃ絵がヘタ」という教師。ウサギの絵が「タヌキ」に間違われることもあった。

午後7時に始まる識字学級は、未明まで続くことが多かった。教師は妻から疑いの目を向けられる。

元旦、教師の自宅に「教え子」たちの年賀状がドサッと届いた。「字をしらなかったわたしたちが、すこしかけるようになりました。おくさまにはごめいわくをかけました」-

「まごころが、ゆがんだ行間にあふれていた」と当時の記者は書いている。年賀状を見た教師の妻は、部落問題に積極的に関わるようになったという。

タブー視されていた部落問題を真正面から取り上げ、結婚や教育現場での差別、行政や市民意識のひずみを描き出した企画は81年度の新聞協会賞を受賞した。

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「君よ太陽に語れ」は、取材や執筆に慎重を要するテーマとして人権問題を避けることなく「人権は書いて守る」という姿勢を後輩記者たちに植え付けた。

本紙は92年にシリーズ「事件報道の改革『福岡の実験』-容疑者の言い分掲載」を開始。容疑を否認している容疑者の主張を掲載する試みを全国に先駆けて行い、新聞協会賞を受けた。98年には「犯罪被害者の人権」に光を当て、2011年からは刑事司法制度全体を題材とした「罪と更生」に取り組んだ。記者の心構えを示す「人権報道の基本」は改訂を繰り返し、今も定期的に記者研修会を開いている。

差別の解消を目指す被差別部落出身者らが全国水平社を創立してから100年の節目を迎えた22年。当事者自身が声を上げて社会を変えようとする理念は、現代にも引き継がれている。人権報道に改めて注力するべき機会であることは、本紙にとって自明だった。

取材班のメンバーは、それぞれに構想を温めてきた。入社直後の18年に「水平社100年は必ず取り組もう」と先輩記者に言われたことがきっかけで、西田昌矢記者の連載「記者28歳 私は部落から逃げてきた」は生まれた。

現役の新聞記者が被差別部落出身であることを明かして記事を書いた例は、研究者たちも「聞いたことがない」と口をそろえる。周囲にも明かしてこなかったルーツを西田記者が公表できたのは、4年をかけて「書くべきか」を考えてきたからだった。

大学時代に友人を通じて部落問題に関心を持ったという森亮輔記者(38)は本紙の人権報道を知った上で「ここなら水平社100年を全力で書けるはず」と13年に入社。関連取材を続けてきた。山口新太郎記者(38)は被差別部落の多い福岡県内でさまざまな取材を続けるうち、当然の知識として部落問題を学んでいた。この2人が専従となり、200人以上の出身者に話を聞いた。(以下ソース)

2023/09/07 06:20
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