申請したマイナンバーカードができたのに本人がまだ受け取らず、保管されている「未交付」のカードが7月末時点で、少なくとも首都圏に72万枚あることが本紙の調査で分かった。
 この中には、本来なら廃棄されるような古いカードも混ざっている。なぜ受け取りにこないのか。役所に眠る大量の未交付カードの謎に迫った。(デジタル編集部・福岡範行、小寺香菜子)

◆カード必要ない?忙しい?
 本紙が確認した「未交付」は、72万5776枚。カードを受け取りたいと申請した総数の5%ほどにあたる。
 これは東京23区と首都圏の県庁所在地、政令市のうち、本紙のアンケートに回答した28区市の数字を足し合わせたものだ。このうち新宿区は2022年1月以降に申請があった未交付分を答えた。
 アンケートは8月に尋ねた。千代田区はアンケート回収後の取材に、8月末時点の未交付は1275枚だったと答えた。大田区と宇都宮市は未回答だった。
 各自治体に未交付の理由を尋ねると、「申請したが、現在は必要ないと感じているのでは」「受け取りが面倒」「(本人が)忙しい」ことなどを挙げた。
◆「政府のゴリ押し」受け取り行かず
 5月にカードを巡るトラブルが表面化した影響とみる自治体もあった。世田谷区の担当者は、自主返納が増えていることから「申請した人の中でも、受け取りたくなくなった人がいるのでは」と推測する。
 本紙は、各自治体に3〜7月のカードの自主返納数も尋ねた。世田谷区に限らず、多くの自治体で5月を境に返納が急増していた。
 自治体は、受け取りに来ない理由を本人から聞いているわけではない。そこで本紙は、無料通信アプリLINEの東京新聞「ニュースあなた発」のアカウントでつながる読者らにアンケートしてみた。
 回答のあった346人のうち、カード取得者は185人。申請したのに受け取っていない人は7人いた。
  7人に理由を尋ねると、「トラブルが相次ぎ不信感がある」や「今は必要性を感じない」といった人のほか、「面倒だから」「受け取りの予約枠がいっぱい」という人がいた。
 不信感を理由に挙げたのは2人。その一人の埼玉県の60代男性は、「拙速に事を進めようとするため、ゴリ押しした感が否めない」と政府の対応を批判する。
◆「申請したこと後悔」の声も
 マイナンバー制度について本紙が取材したことのある山口大の立山紘毅教授(憲法・情報法)も、トラブル頻発を理由にカードを受け取っていない一人だ。
 立山氏は「私のような人は他にもいるだろう。今、政府に求められるのは申請を急かすことではなく、国民への丁寧な説明とトラブル解消では」と指摘する。
 アンケートでは、カード取得者でも8割以上が政府の対応を「評価しない」と回答。「ポイントに釣られて申請したことを後悔している」という声もあった。
◆「廃棄しないで」コロナ禍の通知が今も
 さらに理由を探っていると、意外な事実にも突き当たった。「未交付」カードがたまっていくのは、役所の側にも事情があるというのだ。
 もともとマイナカードは、自治体が本人に受け取りに来るように促す督促を送った後、90日以内に受け取りに来ない場合には「受け取りの意思がない」とみなして役所がカードを廃棄することができた。
 事情が変わったのは、総務省が2020年3月に出した通知だ。
 新型コロナウイルスの感染拡大で役所の窓口に行くのが難しくなったため、各自治体に「当面は保管するように」と求めた。感染対策が緩和された今も、総務省はカードができるだけ行き渡るようにするため、保管を促している。
 7月末時点で約8300枚が未交付だった東京都荒川区の担当者は、「未交付数が多くなった要因には、総務省通知の影響もある」と認める。ただし、各自治体とも未交付数のうち、廃棄対象の数までは把握していない。
◆長期保管に悩む自治体も…総務省は姿勢変えず(略)

マイナカードの交付状況のアンケート 本紙が8月、東京23区と神奈川、埼玉、千葉、茨城、栃木、群馬の6県の県庁所在地、政令指定都市に計31区市に実施した。7月末までのマイナンバーカードの取得申請の総数や、申請者に渡っていない未交付の数、3〜7月の本人の希望に基づく自主返納の数などを尋ねた。東京都大田区は「国から求められている数字しか把握していない」として申請総数のみ回答。宇都宮市は「出せないデータもある」として、全て回答しなかった。3月、4月の自主返納数など一部の数字を未回答にする自治体もあった。

東京新聞 2023年9月25日 06時00分
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