東京・銀座の高級腕時計店で5月に起きた強盗事件で、実行役に犯行を指示したとして、警視庁少年事件課は29日、強盗と建造物侵入の疑いで、横浜市のアルバイトの男(18)を逮捕したと発表した。実行役の4人は強盗容疑などで逮捕されたが、指示役の逮捕は初めて。男や実行役の背後に反社会的組織の存在があるとみて調べている。
 少年事件課によると、男は神奈川県内の不良グループの一員。実行役とは秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」で連絡を取っていたという。実行役のスマートフォンの解析などから浮上した。同課は男の認否や実行役たちとの関係を明らかにしていない。
 事件は5月8日午後6時過ぎに発生。銀座の高級腕時計店「クォーク銀座888店」に白い仮面姿の3人組が押し入り、腕時計など74点(3億円相当)を奪って運転役とともにレンタカーで逃走した。
 実行役とされる横浜市の4人のうち、18~19歳の男3人は起訴され、少年(16)は少年院送致されている。このうち元高校生の男(18)には9月25日、東京地裁で懲役4年6月の実刑判決が言い渡された。レンタカー手配役の茨城県行方市の男(33)も詐欺罪で起訴されている。
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◆現場へ向かう途中に「逃げたい」
 銀座の腕時計店強盗で実刑判決を受けた元高校生の男(18)は、公判の被告人質問で「『報酬100万円』と誘われて犯行に加わってしまった」と証言し、「考えが甘かった。周りに相談するべきだった」と後悔を口にした。
 実行役のうちリーダー格の男(19)ら3人は知人同士だったが、元高校生は誰とも面識がなかった。事件に関わったきっかけについて、「地元の友人に『仕事やらない?』と誘われたことだった」と語った。
 内容不明だが報酬100万円の仕事が1週間後にある—。友人から5月6日夕に持ちかけられた元高校生は、15万円の借金があったこともあり「1週間後なら断るチャンスもあるだろう」と即決した。しかし翌7日、友人から「明日になった」と告げられる。
◆何の仕事?答えは「強盗」
 事件当日の8日、指示役からスマートフォンに、神奈川県内の指定場所にあるワゴン車に乗るようメッセージが届いた。車で合流した3人に何の仕事か尋ねると「強盗」と言われた。
 「逃げたい」と思ったが、都内に向かう車内でリーダー格が「組織」の関与をほのめかし、電話で何者かに「今はこのあたりを走っています」と報告するのを目の当たりにした。「逃げたら襲われる」と諦めた。
 事件後に車で逃げている間も、リーダー格は「敬語やため口を使い分けながら」複数人に電話していたという。警察に追い詰められ4人が車を乗り捨てた後、元高校生は「3人と離れたくて」別方向に逃げたが、すぐに身柄を確保された。
 被告人質問で「あのときこうすればと、ずっと振り返っていた。後悔している」とうなだれた元高校生に突きつけられたのは、実刑判決だった。
 ある捜査幹部は「若者が簡単に高収入を得られるような仕事があるわけがない。安易に手を出して人生を棒に振っていいのか。少しでも違和感を覚えたら、信頼できる大人や周囲に相談してほしい」と強調した。(鈴鹿雄大、山田雄之)

東京新聞 2023年9月30日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/280665