ことし8月15日、お盆真っただ中の東名高速道路で、大量の出血がみられる作業着姿の男性が横たわっているのを元看護師の女性が発見した。女性は無我夢中で運転席の夫に「車を止めて!」と叫び、真っ先に駆け寄っていた。

 同日午前9時55分ごろ、足柄上郡山北町の東名高速道路上り線。帰省ラッシュや台風の影響による激しい雨もあって高速は断続的に渋滞していた。元看護師の主婦、後藤彩さん(40)は夫と娘2人と帰省先の大分県から横浜市内の自宅へ帰る途中だった。

 突然のことだった。片側3車線の道路に工具のような物が散乱していて、路上に男性が倒れていたのだ。男性は単独事故でトラックから投げ出されていた。

 すぐ先の路肩に車を止め、男性の容態を確認しようと駆け寄った。いびきをかくような呼吸はあったものの、腕に手を当てたが脈はなかった。17年間ほど看護師として救急外来などに携わってきた後藤さんは、心肺停止状態にあると判断した。

 「とにかく助けないと」。後藤さんは救急車が来るまで心臓マッサージを施した。両手は男性の血液で赤くぬれ、感染症の危険も頭をよぎったが、救いたい一心で手を動かした。

 後藤さんの周りには人だかりができ、土砂降りの雨からぬれないように傘を差してくれる人もいた。約10分後、救急車が到着し男性は病院に搬送されていった。

 男性は現在、回復に向かっているという。後藤さんは「無事だという話を聞くまで、余計なことをしてしまったのではないかと不安だった」と振り返り、「あのとき助けてあげれば良かったと後悔するのは嫌だった。無事で良かった」と笑顔で話した。

◆「冷静な判断と知識あってこそ」

 神奈川県警高速隊は今月20日、危険を顧みず男性の命を救ったとして、後藤さんに感謝状を贈った。松下昇隊長は「道路上での救護活動は常に周りを見ていないと非常に危険。冷静な判断と看護師としての知識があってこその行動だった」と勇気ある行動をたたえた。

10/10(火) 11:31 カナロコ by 神奈川新聞
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