テレビなんて出なけりゃよかった……。世間の批判を受け、ベテラン漁師はポツリと呟いた。中国の禁輸措置で、猿払村ではホタテパニックが発生。ホタテ長者は没落してしまうのか? 現地に飛んだ。

■芦屋よりも平均年収が高い

 「貧乏見たけりゃ、猿払に行け」

 こんな言葉が広まるほど、かつて北海道猿払村は貧しい村だった。明治時代にホタテ漁で栄えたが、乱獲により数が激減。浜に流れ着いた缶詰がごちそうと言われるほどの飢えに苦しんだ。

 転機となったのは、'71年に始まったホタテの稚貝放流だった。1億9400万粒の稚貝を海に放ち、ホタテが育つまでの4年間を耐え忍んだ。稚貝事業は成功し、猿払村はやがて日本一のホタテの産地となった。

 水産・食料経済が専門の近畿大学世界経済研究所・有路昌彦教授が言う。

 「約20年前、中国への輸出ルートを開拓できたことで、北海道ホタテは一大産業になりました。人件費の安い中国で加工をし、ヨーロッパやアメリカに輸出するビジネスモデルを確立したのです」

 昨年の日本の水産物輸出額は3873億円で、最も大きいのはホタテの約910億円。そのうち51.3%が中国への輸出だ。とりわけ猿払村のホタテはブランド品として価値が高く、昨年度の取扱高は106億7700万円にまで上った。

 村は「ホタテ景気」による活況に沸き、数多くの「ホタテ長者」も誕生。総務省が発表した資料によると、昨年度の市区町村別平均所得では、カネ持ちの街として知られる兵庫県芦屋市や東京都文京区を抑え、全国6位(約732万円)にランクインした。村に帰ってくる若者も増え、一時激減した人口も約2700人で下げ止まっている。

■ホタテの村猿払を直撃

 だが今、そんな「日本一裕福な村」である猿払村に危機が訪れている。今年8月、東京電力福島第一原発からの処理水放出を受け、中国が日本の水産物に対し禁輸措置を取ったのだ。

 最大の輸出先である中国を失い、猿払村はどうなってしまうのか。ホタテ漁師たちの現状を取材すべく、10月下旬、本誌は現地を訪ねた―。

 (略)

■世襲でしかなれないホタテ漁師

 猿払村の漁船は全部で32隻。うち24隻がホタテ用で7隻が毛ガニ用、1隻は見習い用の研修船だ。猿払村漁協の組合員は270人程度。ホタテ船は一隻5人乗りが基本で、「給料」も決まっているという。

 若手漁師が続ける。

 「猿払の漁師は『平等』が原則。ほかの船を出し抜くということはない。給料は毎月25日に振り込まれるんですが、船長が45万円、機関士が42万円、一般甲板員が40万円です。これに加え、毎年1回、『増産手当』と『配当金』をもらえます。前者は予定より多く漁獲量があった場合に出るもので、いわばボーナスです。配当金は乗船期間に応じて支払われる。

 増産手当も配当金も、ほとんどの年で1000万円以上もらえる。なので、40歳を超えれば年収3000万円以上は当たり前。20代でも2000万円は軽くいきますね」

 ちなみに、この若手漁師は20代半ばだが、副業もやっており、年収は4000万円だという。

 これだけ儲かるなら、ホタテ漁師になりたい人が殺到しそうなものだが、それは許されないシステムになっている。ベテラン漁師が解説する。

 「船が増えることはありません。よそ者が漁師になることも不可能です。猿払のホタテ漁師はすべて世襲。船主になれるのはその息子だけ。一般漁師の息子はずっと漁師です。漁師になれるのは実子・養子を問わず、子供2人まで。3人目は別の仕事に就くことになる。60歳定年制というのも猿払の特徴です。ちなみに、配当金は11年目から78歳までもらえます」

■ベンツやフェラーリだらけ

 港から少し内陸部に入ると、3階建ての豪奢な邸宅が並んでいるエリアがある。駐車スペースには、ハイラックスやランドクルーザーといった高級車がズラリ。漁師たちが建てた「ホタテ御殿」である。

 昼過ぎ、庭で家族とバーベキューを楽しんでいた30代の漁師に「御殿」について話を聞いた。

 「このあたりは王子製紙の土地だらけで村が所有する宅地が少ない。漁に行くのが便利な港から近いエリアで土地が出ると、抽選になるほどの人気です。坪単価は1万円くらいかな。今だと、土地と上物で一軒あたり8000万円程度ですかね」

以下全文はソース先で

11/21(火) 9:03 現代ビジネス
https://news.yahoo.co.jp/articles/9c19ee321a917849d8a0d24a7c015a6fd96163b7?page=1