2023年11月29日 06時00分

<家族のカタチ 婚姻の平等を求めて>㊤

 11月の晴れた休日。2歳の女の子が外出先で2人の女性と手をつないでいた。片方は「おかあさん」、もう一人は「ママ」。この子はそう呼んでいる。「おかあさん、こっち来て~」「ママはここ!」。笑顔からこんな声が聞こえる。

 「おかあさん」のちひろさん、「ママ」のリサさん(ともに仮名)は、東京都内で2020年から同居する30代。「パートナーと子どもを迎え、家族として暮らしたい」。同性カップルが子どもを持つ方法やリスクなどを話し合った末、ちひろさんが知人男性から精子提供を受け、妊娠した。翌年生まれた女の子は、ちひろさんの長女となった。

◆書類上は「2世帯同居」

 一方でリサさんと女の子は今のところ、法律上の関係がない。一つ屋根の下にいても、書類上は2世帯同居という形。「もしパートナー(ちひろさん)と子どもに何かあったら、病院で手術の説明や同意に加われるのか。娘の保護者として育て続けられるのか…」。リサさんはふとした瞬間、不安に駆られる。

 同性が結婚できる国・地域では、リサさんのような立場の女性に法的な親子関係を認める例がある。同性婚の実現を求める東京訴訟弁護団の上杉崇子(たかこ)弁護士は「同性婚の法制化は、同性カップルの親子関係の安定につながる」と話す。

 同性カップルが子を持つことに、交流サイト(SNS)などでは「エゴだ」「子どもがかわいそう」などの批判も上がる。リサさんは「男女の夫婦も、子どもを持つかどうかは自分たちで決めている。子どもに困り事があっても、親として対応できる」と話す。

◆空気は変わった。変わらないのは法律だけ

 向けられる視線が変わってきたかも、と感じる時もある。「同性カップルなんです…」。妊娠中、ちひろさんは緊張しながら医師に打ち明けたが、緊急連絡先をリサさんにするなど、配偶者と同じように対応してくれた。リサさんの職場は、子どもの看護休暇をくれた。保育園は、2人を保護者として接してくれる。

 「子どもを産み育てる同性カップルは年々増えている。法整備だけが追い付いていない」。支援団体「こどまっぷ」(東京)の長村さと子代表理事は話す。

 ちひろさん、リサさんも一刻も早い法整備を願う。「結婚し、家族や子どもを持つ権利は平等にあるべきだと思う」

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 同性婚の法制度がないのは「違憲状態」とした東京地裁の判決から30日で1年となるが、具体的な法整備の道筋は見えない。「婚姻の平等」を待ち焦がれる同性カップルの声を聞いた。(この連載は奥野斐が担当します)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/292749