ムック『世界の傑作機』を手に取る小泉さん
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ロシア軍事の専門家として、いまやメディアに引っ張りだこの小泉悠氏。一方、Twitter(現X)では、「ИPO法人全裸中年男性理解促進センター」「丸の内炒飯OL」「癒やし動物動画bot」などのハンドルネームを使っての、“素のつぶやき”が人気を集めている。その小泉氏に、あくまで王道を歩まない、「職業=オタク」な仕事術を訊いた。

【画像】小泉悠氏の研究室にあった愛読書

(1)細部にこだわる「オタク」であり続ける

 私は元々、研究者というよりは「軍事オタク」なので、特に誰から言われるでもなく、放っておけば一日中軍事のことを考えている人間です。

 2000年代に大学生だったので、時間がありあまっている若い軍事オタク時代と、インターネットの普及が重なり合ったんですね。ネットを使えば気軽にマニアックな軍事情報にもアクセスできるようになった最初の世代で、最終的に「職業軍事オタク」みたいなことになってしまった。

 ですから、まさか多くの人が見ているテレビの報道番組に出ることが増えるとは思ってもいませんでした。特に、ウクライナ戦争が始まってからはマニアックな軍事の話だけでなく、ロシアのクレムリン(中央政府)やプーチンのことなど、国際政治やロシア社会といった大局について発言する機会も増えました。

 そういうときに自分で気をつけているのは、逆説的ですが、オタクだからこそ、ちゃんと“細かいことが分かる”ようにしておくということです。

 そもそも世の中には優れたロシア研究者がたくさんいるわけです。本来、ロシアの話をしてもらうならそういう人たちにしてもらったほうがいい。

 それでも私みたいな人間が人前で何かしらロシアの話をさせてもらえるとするなら、それなりの「お買い得感」みたいなものが求められると思っています。それが、私のいう“細かいこと”です。ロシア軍に現在、何個軍管区があって、兵力は何万人で、戦闘機の「ミグ」を何機持っているかといった細かい知識です。あるいは、北方領土のロシア軍は今どんな動きをしている、新しくカムチャツカに新型原子力潜水艦が配備されたといった情報をすぐに把握していくことですね。

 こういう“細かいこと”はロシア政治を専門にしている先生たちもだいたい知っているのですが、「ロシアの武装強襲ヘリに新しい赤外線妨害装置がついている」といったことまではさすがに把握していません。「それを知ってどうするんだ」という話ではありますが、この角度でロシア軍を観察している人間だっていてもいいでしょう。逆にいえば、そのくらいのことしか比較優位がないので、そこは譲らずにアップデートし続けようと思っています。

 細かい話をちゃんと追い続けていないと話がフワッとしてくるのが自分でもわかるし、そうなったらただの曖昧な話をする人ですからね。

(2)毎週、必ずメルマガを書く

(省略)

(3)「横の文章を縦にする」だけの仕事はしない

 情報のインプットで心掛けているのは、どんなに忙しくても、一日のどこかで「専門書の1チャプターは読む」、もしくは「論文を1本読む」ということです。

 流し読みになってしまうこともありますが、学術的なものをそのくらいのペースで読んでいかないと、自分の「データ解釈力」が落ちるのがわかる。専門的な文献を読みながら、触れた情報を次々に「Evernote」に保存していきます。

 いちばん大切にしているタグのつけ方は、「事実」と「論文」をしっかり分別することです。

 事実が書いてある情報と、それをもとに分析した論文・論考をしっかりと分けておくと、後から検索しやすい。日常からしっかり情報を整理しておけば、膨大な過去の情報や先行研究を気軽に参照しながら、執筆することができます。

 ものを書くときに気をつけているのは、「横の文章を縦にする」だけの仕事はやめようということ。今の自動翻訳はとても優秀ですから、翻訳しただけのアウトプットは、ますます意味がなくなってきている。文法が守られているロシア語の文章であれば、翻訳サイトの「DeepL」を使えば、多少、軍事用語はおかしくなりますが、問題なく日本語で読める時代になりました。

 だからこそ、「外国のメディアがこう書いています」と紹介するだけでは意味がない。書かれていることの背景を説明できることに価値がある。つねに翻訳者ではなくて解説者でありたいと思っています。

12/12(火) 11:12配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/b62bd1b20c8e3291af3859cfb13aecd7fb640230