「一種の経済的虐待」…第三者に生活保護費を管理させる契約を桐生市が受給者に押し付け 不適切支給問題

 不適切な生活保護費の支給が問題となっている群馬県桐生市が、20代の男性受給者に市との委託契約関係がない県内の民間団体を紹介し、保護費の管理を委ねるよう勧めていたことが分かった。男性と契約した団体は通帳と銀行印を預かり、保護費全額を渡さず、一部だけを月2回男性が自由に使える口座に振り込んでいた。専門家は「保護費を公的団体ではなく、権限がない第三者が預かる運用は通常あり得ない」と指摘する。(小松田健一)
◆月7万円のはずが2週間に1回、1万4000円だけ
 この団体は太田市の一般社団法人「日本福祉サポート」。ホームページでは主な事業に、高齢者の身元保証、財産管理や終活の支援、葬祭などを掲げる。
 男性は高校卒業後に勤めた職場で精神的に不調となり、2021年11月から月約7万円の生活保護費を受給。2週間に1回、現金で1万4000円の支給が条件とされ、残りは市が現金のまま保管した。市の担当者は「母親が以前生活保護を受給していたため」と説明したという。
◆団体が男性の通帳・銀行印を預かる
 22年12月には、市の担当者から、団体による財産管理と身元引き受けの契約を勧められた。契約に際し、市から保護費の受給先とする新たな口座を作るよう指示され、団体が保護費から月2回1万4000円を振り込む別の口座のキャッシュカードだけ渡された。通帳と銀行印は団体が預かった。
 男性の母親から相談を受けた仲道宗弘司法書士が、今月22日に団体から通帳と銀行印を返却させた。保護費の受給先の口座には、約19万円が残っていた。
◆団体は「独自の判断で管理することはない」
 小山貴之・桐生市福祉課長は、団体と市の契約関係はないとした上で「金銭管理が必要と考えられる方などを対象に、選択肢の一つとして同団体のほかNPO法人、社会福祉協議会を紹介している」と答えた。
 日本福祉サポートは本紙の取材に、桐生市から委託料などは受け取っていないと回答。「依頼者からの依頼に基づいて管理を実施しており、自治体や当法人独自の判断で実施することはない」とコメントした。
◆受給者男性「自分からは依頼していない」
 男性は取材に、仲道氏を通じ「自分から依頼はしていない」と否定。仲道氏は「受給者の立場では、市から勧められて断るのは難しい。満額支給しなかった上に、精神面で専門家の支援が必要な男性を専門的知見がない民間団体へ実質的に丸投げしたのは、一種の経済的虐待だ」と批判する。
 群馬県地域福祉推進室は「受給者へ丁寧に説明して理解と納得を得る必要はあるが、民間団体に財産管理を委ねること自体は不適切とは言えない」とした。
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◆第三者に任せると搾取される恐れ
京都市役所で生活保護業務の従事経験がある吉永純・花園大教授(公的扶助論)の話 金銭管理を任意の第三者に任せると搾取(ピンハネ)等の危険があり、基本的には成年後見や社会福祉協議会が行う日常生活自立支援事業など公的な規制の下に置かれなければならない。生活保護費は保護利用者の最低限の生活費であり、本件でもその団体が毎日1000円相当の保護費しか利用者に渡さない権限などあるはずがない。桐生市はその団体に保護費の管理を任すよう、生活保護利用者を事実上誘導していたと言われても仕方がなく、違法の疑いが強いと言わざるを得ない。

東京新聞 2023年12月30日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/298935