2000年12月30日の午後11時から翌31日の未明にかけ、会社員の宮沢みきおさん(当時44)、妻の泰子さん(当時41)、長女のにいなちゃん(当時8)、長男の礼君(当時6)の4人が殺害された世田谷一家殺害事件。警視庁はこれまでに延べ約29万人の捜査員を投入したが、いまだ解決には至っておらず、12月30日で事件発生から23年を迎える。

今月16日には、殺人事件被害者遺族の会、通称「宙の会」による世田谷一家殺害事件に関する朗読劇「午前0時のカレンダー」が上演された。
朗読劇では、みきおさんの母・節子さんの日々が綴られた。カレンダーに毎日斜線を入れて解決を待つ様子や、元警視庁成城警察署署長で「宙の会」特別参与の土田猛さんと節子さん夫婦の交流、DNA鑑定への思いなどが語られ、みきおさん一家の思い出の写真が流れる最後の場面は、会場の涙を誘っていた。

◼警察やメディアの姿勢に疑問、自ら情報発信へ

世田谷一家殺害事件の現場には多くの遺留品が残されていたものの、現在もなお、犯人逮捕には至っていない。

現在、日本の警察は犯罪捜査において、人間のDNAのうち身体的特徴や病気に関する情報が含まれていない「DNA型」と呼ばれる部分のみを活用しているが、「宙の会」は性別・民族性・年齢幅などの情報を含む「DNA遺伝情報」を捜査に活用することなどを訴えている。
前出の土田さんは、今回朗読劇を上演するに至った経緯について「これまでは集会等で情報提供を呼びかけてきたが、証拠品や遺留品から情報提供を求めるのはあまりにも抽象的すぎた」と振り返る。

実のところ、世田谷一家殺害事件の犯人のDNA遺伝情報は大学教授が解析したことがあり、犯人の民族性について「父が東アジア系で、母方は南ヨーロッパ周辺にルーツを持つ」ということがわかっているという。この事実は一部で報道されたものの、警察側はこれを“漏れた情報”だとして、それらをもとにしたチラシ配りを行うなどの活動は控えるよう、土田さんらに要請した。

土田さんはこれまで、集会などで犯人の遺伝情報の内容について話をしてきた一方、報道側がそうした内容を取り上げる事は少なかったと明かし、「報道側による警察側への忖度もあったのでは」と語った。
メディアが報じないのなら、自ら情報を発信しなければ。そう実感した土田さんは、警察の捜査においてDNA情報が活用され切っていない現状を肌感覚で受け止めてもらい、集まった人の共感を呼びたいと考えたという。

◼法整備の実現には“世論の力”が必要に

そもそもなぜ、性別・民族性・年齢幅といった具体的な犯人像が分かる「DNA遺伝情報」は捜査に活用されていないのか。

「警察庁や国家公安委員会は、DNA遺伝情報が“究極の個人情報”であるがゆえに捜査に活用しないとしています。一方、被害者の人体は全部解剖され、警察官だけでなく、場合によっては検事や、医学部の学生らが立ち会うこともある。
被害者の“究極の個人情報”は守られていないにもかかわらず、プライバシーの問題を理由にDNA遺伝情報の活用には踏み込まないということは、加害者を過度に保護した線引きではないでしょうか」(土田さん)

また、DNA遺伝情報について、土田さんは「どのような場合にDNAを採取し、保存・データベース化していくのか、どのような場合に情報を削除するのか。法案によって、その運用の仕組みを作り、検証することを定める必要がある」と将来的な活用の方向性を話す。

そのうえで、民族性を絞り込むなど犯人を特定する確率を高めるためには、データベースに多くの情報を集める必要があることや、研究を進めるために予算の確保が欠かせないことを課題として挙げた。

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https://news.yahoo.co.jp/articles/bacdc88647c8a7b0578852a0081a35eee63bbf50

[弁護士JPニュース]
2023年12月30日9:10