今年1月に大阪湾に迷い込んだマッコウクジラ(体長約15メートル、体重38トン)の死骸の処理費用(8019万円)は、大阪市の試算の2倍以上だったことが、読売新聞の情報公開請求で明らかになった。
市の担当部署は、市の基準で金額を決めることで業者と合意していたが、市長ら特別職に報告しないまま、緊急性や特殊性があるとする業者側の増額要求に応じていた。

「淀ちゃん」と呼ばれたクジラは1月9日に大阪市の淀川河口付近で見つかり、13日に死んだことが確認された。

市大阪港湾局は船の航行に影響が出ないよう、120キロ以上離れた紀伊水道沖の海中に沈めることを決めた。同局は17日、大型の引き船を保有する市内の海運業者に処理を依頼。
クジラが内部にたまったガスで破裂しないよう、専門機関がガス抜きを行った後、業者側はクレーンで土砂運搬船に積み込み、19日に引き船2隻で引っ張って紀伊水道沖に投下した。大阪港出発から戻るまで1日がかりの作業だった。

◼「特殊で緊急」業者の要求に応じる
同局は処理費については後払いとし、1社のみの見積もりによる「特名随意契約」を結ぶことを想定。金額は発注者(市)の基準に基づき協議して決めるとの書面を業者と取り交わした。
市が公開した資料などによると、同局は埋め立て土砂の処理を依頼する際の基準を使い、引き船を2隻として3774万円と算定。内訳は 曳船えいせん 作業費1113万円、クレーン作業費615万円、土砂運搬船作業費356万円などだった。

しかし、業者はクジラの処理は特殊で緊急性があるとして、「曳船作業費はエンジントラブルを起こした船の救助事例」を基に2619万円とはじいた。総額は8625万円で、同局の試算と2倍以上の開きがあった。

同局は、「救助事例は参考にならない」として受け入れなかったが、業者は新たに大阪港で大型客船などを先導し、接岸を支援するハーバータグの料金を充てるべきだと主張。ハーバータグは、港での事故を防ぐため高度な技術が必要とされ、作業時間は1~2時間と短い代わりに、時間あたりの料金が高く設定されている。

同局は並行して顧問弁護士に対応を相談。やり取りの内容は公開しなかったが、関係者によると、顧問弁護士は「業者は市の基準で処理することを納得して受けたのだから、業者の言い分を受け入れる必要はない」と指摘。
交渉がまとまらない場合、訴訟などの方法もあるとし、当時の松井一郎市長や副市長に早急に相談することを助言した。

しかし、同局は松井市長らに相談しないまま、ハーバータグでの試算を受け入れ、想定金額を8063万円に引き上げた。曳船作業費は当初の約3倍の3328万円に跳ね上がった。土砂運搬船の清掃費(457万円)など、業者の見積もりをそのまま採用した費目は7116万円に上り、8063万円の88%を占めた。

関係者は「曳船作業を頼める業者は少なく、関係を悪化させたくないという意見が強かった」と話す。

(略)

◼山口県は業者の見積もり使わず

自治体が自らの基準に沿ってクジラの処理費用を決めたケースもある。
山口県が2020年3月、萩市に漂着したクジラ(体長約13メートル)の死骸を海洋投棄した際には、土砂の運搬を依頼する基準で費用を算出し、委託業者の見積もりは使っていないという。契約金額は272万円。引き船は1隻で、移動距離は約10キロだった。
県萩土木建築事務所は「資機材は普段の土木工事で使うものと変わらず、従来の基準を当てはめるべきだと考えた」と説明した。

全文は
https://www.yomiuri.co.jp/national/20231231-OYT1T50030/

[読売新聞]
2023日12月31日12:06