能登半島地震で石川県内の被災地では、新型コロナウイルスや季節性インフルエンザ、ノロウイルスなどの感染症が広がっている。同じ避難所で多数の感染者が発生する「アウトブレーク」のリスクも、指摘され始めている。

 「避難所での感染症対策が緊急的に必要だと思っています」。11日、県は厚生労働省と連携して対策を担う司令塔組織を作り、馳浩知事は発足式でそうあいさつした。

 新組織は厚労省の荒木裕人・感染症対策課長をトップとし、県庁職員や他県からの派遣職員計7人で構成。避難所に支援に入った医師や看護師、保健師らが円滑に活動できるよう指揮していく。

 というのも、避難所では対策をしようにもさまざまな課題があるからだ。

 日本環境感染学会の専門家らで作る「災害時感染制御支援チーム」(DICT)は県の要請を受け、避難所などで支援している。3〜6日に輪島市や志賀町などの避難所に入った泉川公一・長崎大教授が目の当たりにしたのは、感染対策の基本となる水と衛生用品など物資の不足だった。

 手を清潔に保つ上で欠かせない水が使えず、泉川教授は「高校生のボランティアが、なけなしの水をバケツに集め、水洗トイレに流していた」と話す。消毒液などもわずかしか残っていなかった。

 チームは消毒液や排せつ物を固める凝固剤、体を清潔に保つシートなどの物資を現地へ運んだ。

 だが、泉川教授は「道路事情の悪さが壁になり、全てのニーズに応えられていない」と支援の難しさを口にした。断水は今も、能登半島の北部など6市町のほぼ全域で続いている。


 災害医療チームを被災地に派遣している日本医師会の細川秀一・常任理事は「断水でトイレを流すことができない所もあり、ビニール袋を使って排せつ物を捨てている」と話す。

 こうした背景もあってか、現地では感染症の症状を訴える人が増えている。

 厚労省などによると、感染症の症状を訴えて13日に避難所などで診察された人は、新型コロナやインフルエンザなど急性呼吸器系の感染症が142人、ノロウイルスなど消化器系の感染症が24人だった。日本環境感染学会の調査では、避難所460カ所のうち18カ所でインフルの患者が確認された。


 その中で、避難所になっている県立輪島高校(輪島市)では、空いている教室を活用して感染症にかかった避難者を他の避難所からも集め、隔離していた。しかし、感染者の増加に伴い隔離の場所が確保しにくくなっている。

 一方、能登半島北部の医療機関の機能も徐々に回復の見込みはあるものの、依然として続く断水によって厳しい状況に置かれている。

 自身も5〜7日に現地入りした細川・日本医師会常任理事は「診療所はほとんど機能していなかった」と語る。能登半島の四つの災害拠点病院でも、14日の時点で3病院で断水している。

 「(能登町内の診療所や病院では今でもほとんど)器具の洗浄や手術、透析などができない。水がない時点で、求められる医療が提供できない」。静岡県から駆けつけ、町の保健医療福祉調整本部長を務めている志賀一博・聖隷三方原病院高度救命救急センター救急科部長は、そうこぼす。

 公立能登総合病院(七尾市)は給水車で何とかやりくりしているが、運営されている医療機関でもスタッフが被災するなどしていて休息が取れない状態だ。

 能登半島では高齢化率が高いことに加え、地震発生後も最低気温が氷点下になるなど寒い日が続く。長崎大の泉川教授は、隔離スペースが不足している点なども挙げて「感染拡大に結びつく悪条件が重なっている」と指摘する。

 公衆衛生に詳しい斎藤玲子・新潟大教授も「避難生活で運動量が減って、体力が落ちたり体の抵抗力が弱まったりした人が多い空間で感染者が出ると、一気にアウトブレークしてしまうと考えられる」と警鐘を鳴らす。【寺町六花、渡辺諒、添島香苗、中川友希】

毎日新聞 2024/1/15 05:30(最終更新 1/15 05:38) 1573文字
https://mainichi.jp/articles/20240114/k00/00m/040/152000c