能登半島地震では、石川県七尾市の「和倉温泉」も大きな被害を受け、22軒の宿泊施設全てが休業している。温泉街を代表する老舗旅館「加賀屋」も復旧を急ぐが、断水や建物の損傷が解消せず、「再開を待つお客さまの期待に応えたいが、めどが立たない」と苦慮している。

 地震の発生当時、加賀屋はほぼ満室で、館内には約400人の宿泊客らがいた。突然の揺れに、支配人の道下範人さん(54)は従業員とともに客室を回り、避難を呼び掛けた。「浴衣の人には上着を渡し、とにかく外へ誘導した」と振り返る。

 七尾湾に面しており、大津波警報も発令。従業員が道路に立ち、宿泊客らを高台の避難所に誘導し、幸いけが人は出なかった。避難所には他の旅館の客も集まっていたが、「非常時なので関係ない」と布団やおにぎりを提供。無事に帰宅した宿泊客らから多くの感謝と励ましの声が寄せられたという。

 営業再開を望む声も多いが、断水解消の見通しは立たず、建物の被害調査も終わっていないため、館内にほとんど入れない状況が続いている。予約は1年先まで入っていたが、6月分までキャンセルを余儀なくされた。

 和倉温泉の一部旅館は被害の少なかった部屋で、災害対応に当たる関係者を受け入れている。加賀屋も準備が整えば協力したいといい、道下さんは「奥能登には観光資源がたくさんあり、半島全体で旅行が完結する」と早期の復興を願う。

 「手紙が数百通来た。お客さまから活力をもらい、何とか頑張れている」。感謝の言葉を口にすると、普段は笑顔を絶やさない道下さんの目が潤んだ。

時事通信 2024年02月07日07時05分配信
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024020600644&g=ieq