日銀は3月にもマイナス金利政策の解除に動く公算が大きい。実現すれば政策金利の上昇は約17年ぶりとなる。借り入れに頼る中小企業は金利動向に敏感になり、金融機関も失われたノウハウの獲得を急ぐ。金利が上がっても生き残れる企業と銀行とは。両者の動きを追った。

 日銀が3月にもマイナス金利政策を解除する可能性が高まっています。「金利のある世界」の復活で眠っていたマネーが動き出し、日本経済を駆動する時代がやって来る。そんな期待の一方で、借り入れに頼る企業や個人には新たな負担がのしかかります。日銀の決定を控えた期待と不安の現場を取材しました。
 1.家計をどう守るか? 「金利のある世界」との上手な付き合い方
 2.「金利のある世界」 住宅ローンの9割占める利用者へのインパクト
 3.マイナス金利解除で借入利息どうなる? 身構える中小企業と金融機関(今回)

 「仮に借入金利が1%上がれば大変なことだ。1980年代ごろの金利は7〜8%の水準だった。同じ1%の金利上昇でも、当時と今ではダメージがまるで違う」。段ボール製造会社コンポー(神奈川県愛川町)の歳原(としはら)博幸社長(75)は、日銀の動向に神経をとがらせる。借入金利が上昇すれば大きな経営リスクとなるためだ。

 同社は61年設立。現在は約40人の従業員を抱え、売上高は20億円規模だ。半径40キロほどの商圏に200社ほどの取引先があり、地域に根ざした経営で生き残ってきた。近年は工場の統合・移転などの設備投資がかさみ、政府系金融機関や地方銀行から多額の融資を受けている。

 借入金利は、ベースとなる市場の金利に、企業の倒産リスクなど個別の状況に応じた上乗せが行われて決まるのが一般的だ。日銀がマイナス金利を解除し、金融政策の正常化に乗り出せば、市場金利の上昇をもたらし、すべての企業の借入金利に波及する。

 長きにわたる日銀の超低金利政策は、借り手の企業にとって金利負担が軽い状況を作り出し、事業継続と雇用を支えてきた。しかし、金利上昇に耐えられるような高い利益率の確保や、それを実現する事業革新を遅らせてきた側面もある。

 歳原社長は「金利のある世界」が復活すれば「借入金利が引き上げられるのは当然のこと」と腹をくくる。しかし、「月々の利息の支払いが一段と重くなり、企業経営が困難さを増す」との苦悩も大きい。

 板金の加工・組み立てを手掛ける内田製作所(神奈川県厚木市)の内田健一郎社長(55)も金利上昇が気がかりだ。毎月の返済が少額で済む長期融資が中心で次の借り換えは約3年後。当面は利払い増加の心配はないが、金融機関との情報交換は欠かせないと感じるようになった。

 「今借り換えたら、借入金利は高くなりますよね? 実際どうですか」。地銀の担当者が来訪した際、こう投げかけた。担当者の返答は「基準となる金利は上がっています」。それを聞き、内田社長は「借入金利の上昇は覚悟した」と気持ちを固めたが、「影響が大きくならないといい」という気持ちは消えない。

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 金利上昇が企業に与えるインパクトはどのぐらいの大きさになるのか。日本総合研究所…
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毎日新聞 2024/3/15 06:00(最終更新 3/15 06:00)
https://mainichi.jp/articles/20240311/k00/00m/020/283000c