東京都内の大学で卒業式が今週末にピークを迎える。東京大では22日、文京区の安田講堂で開かれ、学部の卒業生約3000人が新たな一歩を踏み出した。藤井輝夫総長は「グローバルな視点で見たときの自分の個性や強みをいかして、世界の公共性に創造的に貢献していただきたい」と卒業生に呼びかけた。

 一方、能登半島地震で大きな被害が出た石川県唯一の国立大の金沢大でも金沢市で卒業式があり、約2400人が門出を迎えた。式の冒頭では地震の犠牲者に黙とうをささげた。和田隆志学長は「被災地の復興、持続的な発展に真摯(しんし)な関心を持ち続けて」と述べた。
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◆卒業式の式辞から生まれた名スピーチの数々
 例年、国内外の卒業式で行われる式辞は注目度が高い。近年では2022年、米ニューヨーク大で名誉学位を授与された歌手のテイラー・スウィフトさんが行った式辞が話題になったほか、ある年の東京大式辞は「誤解」から生まれたという逸話も。卒業シーズン真っ盛りの中、過去の名スピーチを振り返る。(石川智規)
◆スティーブ・ジョブズさん「ハングリーであれ、愚か者であれ」
 「いくつかのライフハック(人生の質を上げる術)を紹介しましょう」。こう切り出したスウィフトさんは「人生の新しい章に進むには残すべきものと手放すべきものを見極めること」と強調。「努力することを決して恥じないで。努力しないなんて神話」とした。
 学生時代、地元のお泊まり会やパーティーに誘われず、絶望的な寂しさの中で書いたものが後に楽曲となったと振り返り「失敗が人生で最高のものをもたらした」と強調。「とにかく…。つらいことが起きる。私たちは立ち直る。そこから学ぶ。そのおかげで私たちは成長する」と話した。
 米アップル創業者のスティーブ・ジョブズさんが05年、米スタンフォード大の卒業式で語ったスピーチも「伝説」と語り継がれる。過去にアップル社を「追い出された」苦渋の日々を振り返りつつ、「何より大事なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことだ」。卒業生に「ハングリーであれ、愚か者であれ」と呼びかけた。
◆「太った豚になるより痩せたソクラテスになれ」は言ってない?
 日本で有名なのは1964年3月、当時の東大総長だった大河内一男さんが卒業式で「太った豚になるよりは、痩せたソクラテスになれ」と語ったとされる式辞だ。財産をため込むよりも知性を磨けとの含意で、今も語り継がれる。
 だが、この発言には誤解があるという。東大教養学部の石井洋二郎学部長(当時)は2015年3月の式辞で、大河内氏の言葉は英国の哲学者ジョン・スチュアート・ミルの論文の「不正確な引用」だったと明かした。しかも、大河内さんは式本番で「太った豚…」の部分を省略。当日は発言しなかったのに、事前に草稿を渡されていたマスコミが報道し、大河内さんが発言したように広まったという。
 名言と広まる言説に隠れた誤解。石井さんは式辞をこう締めくくる。「自分の目で確かめることも決して忘れないように」
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◆テイラー・スウィフトさん「努力することを決して恥じないで」(略)
 

東京新聞 2024年3月23日 06時00https://www.tokyo-np.co.jp/article/316746