日本でいま、「住む場所」が縮んでいる。行政や医療、交通機関などの担い手が不足し、自然災害も相次ぐ中、国や自治体が都市機能を集約する「コンパクトシティー」構想を進めているからだ。ただ、一方的な「線引き」は住民とのあつれきを生む。人口減少が加速する時代に、私たちはどこに住めばよいのか。【菅沼舞】

 人口減少を背景に担い手不足が進み、公共セクターを中心に社会が行き詰まりの危機に直面する日本。コモン(公共)のあり方を考える企画「コモンエイジ」第2弾は住まいや医療、子ども、補助金行政などの課題を掘り下げます。

市の資料に「無居住化」
 北九州市八幡東区に住む池亀忠利さん(80)は、市が配布した資料を指さして憤った。

 「人が住んでいるのに『無居住化』と書かれている。頭にきた」

 市は2019年12月、人口密度の低下や災害の恐れがある地域について、都市計画法上の区域指定を見直す基本方針を公表した。

 住宅地や商業施設を開発する「市街化区域」から、開発を抑制する「市街化調整区域」に変更する「逆線引き」と呼ばれる手法だった。

 市街化調整区域になっても住み続けられるが、住宅の新築や賃貸は原則できない。土地の資産価値が下がっても、市から差額分を補償されることはない。所有者のメリットは、不動産にかかる税金が若干安くなるぐらいだ。

 市は住民側に「水道は維持するが、公園の管理などは見直す可能性がある」と説明。22年1月の住民説明会で、ある男性は叫んだ。

 「まだ家のローンが残っている。おれの人生を返してくれよ」

鉄鋼の街で起きた異変
 そもそも、なぜ市はこのような計画を立てたのか。

 北九州地域はかつて、四大工業地帯の一つとして鉄鋼業で栄えた。中でも、八幡東区は明治期の官営八幡製鉄所をルーツに持つ八幡製鉄(現…(以下有料版で, 残り2184文字)

毎日新聞 2024/3/25 07:00(最終更新 3/25 07:00)
https://mainichi.jp/articles/20240323/k00/00m/040/202000c