■紛争 根本から再考の時

 社会の矛盾やタブーを若者の視点で軽妙に描くイスラエルの人気作家ウズィ・ヴァイルさん(59)がテルアビブで本紙のインタビューに応じた。パレスチナ自治区ガザで続くイスラム主義組織ハマスとの戦闘が半年を過ぎた中、ヴァイルさんは「イスラエル人とは何者なのか、ここで何のために戦っているのかという根本的な問題の再考を迫られている」と語った。(エルサレム支局 福島利之)

 〈エルサレムへ続く登り坂にさしかかる瞬間、誰もが選択を迫られる。右か左か。宗教か世俗か〉(波多野苗子訳「嘆きの壁を移した男」)

 ヴァイルさんは、政治や宗教的な立場の違いで分断される社会で、戦争やパレスチナ問題を背景に若者たちの群像を機知に富んだ文章で描いてきた。昨年10月のハマスの奇襲攻撃を受け、「全てが変わり、いまだに人々は混乱している」と話し、「ハイテク産業と強い経済、軍隊があり、何でもできるという高慢さがあった」と自戒を込める。

 イスラエルは1948年、ヨーロッパでのホロコースト(大虐殺)から逃れたユダヤ人が建設した国だ。以降、そこに住んでいたパレスチナ人との紛争が続く。

 「私たちはどこにも行くところがなく、追い出されてきた。日本人がそこにいる理由を聞かれることはないが、イスラエル人は世界中から『なぜあなたたちはそこにいるのか』と問われ続ける」

 パレスチナ問題とは「ストーブに置いた鍋のようなものでうまく扱わないと爆発する」と表現する。「暴力を減らし、善良な人々が生きたいと思う状況を作れるかが問われている」

 大勢の若者が兵士としてガザに赴いた。帰還した若者と対話し、悲観的な思いを聞かされた。「若者たちはこれまで経験したことのないトラウマ(心の傷)に苦しむだろう。有能な若者たちはこの国に希望を見いだせず離れるかもしれない」

 戦場へ赴いた若者をテーマに小説を書くつもりはないのか。「興味深いテーマだが、私は社会的なレンズを通して世界を見るのが好きでない。人間の内なる感情や精神を描きたい。何が正しいか間違っているかを伝え、社会を変えようとするのは私の仕事ではない」

 日本の文化に関心が深く、良寛をテーマにした随筆があるほか、指圧師もしていた。「今、北海道を舞台にイスラエルとロシアの元スパイの男女が再会する逃亡劇を書いている。結末がどうなるかまだ分かりません」

4/15(月) 12:27配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/ac112a17e7ff33be7ad73bda89f58fdd1e254d0e
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