<中高年の応募者が「年齢差別された」とPwCを提訴。人種や性別による差別に厳しいアメリカで、解雇時ではなく採用時の「年齢差別」を禁じる動きが出てきている>

人種や性別による差別に厳しいアメリカは、「年齢差別」にも容赦がない。現在係争中の裁判次第では、若者に特化した採用方針は中高年者に対する差別として禁じられる可能性さえある。すなわち、新卒者に限定した採用が違法になるということだ。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、問題の裁判は大手会計事務所のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)を相手取って起こされたもの。

昨年、新人向けの求人に応募した53歳と47歳の男性が、採用選考からふるい落とされたのは自分たちの年齢のせいだとしてサンフランシスコの連邦裁に訴えを起こした。
彼らの主張によれば、PwCは「ミレニアル世代を惹きつけるために、40歳以上の応募者を意図的に排除しており......この世代から雇用機会を奪っている」というのだ。

ロイターによれば、2011年時点でPwCで働く人の平均年齢は27歳で、全従業員の3分の2が20代〜30代前半だった。米労働統計局のデータではアメリカの会計士と監査人の平均年齢が43歳であることを考えると、たしかにPwCの顔ぶれは若いと言える。

原告側が根拠にしているのは、年齢による待遇上の差別を禁じる連邦法「雇用における年齢差別禁止法(ADEA)」だ。1967年に立法化されたADEAは、「40歳以上の」中高年者に対する雇用上の差別を禁止している。

とはいえ、ウォール・ストリート・ジャーナルが指摘するように、アメリカでは解雇された従業員が「年齢差別」を訴えること自体は珍しい話ではない。今回の訴訟で新しい点は、"採用段階"で40歳以上を排除したとして訴えていることだ。

調査報道機関プロパブリカによると、PwC側が「ADEAは採用希望者には適応されない」と主張しているのに対し、政府機関の雇用機会均等委員会は一貫して「ADEAは採用希望者と従業員の両方に適応される」という立場をとってきた。しかし現実は、ADEAが採用希望者に適応されるかどうかはグレーゾーンのままだ。

現在、最高裁はRJレイノルズ・タバコを相手取った同様の集団訴訟を審理するかを検討しており、近く審理が開始されれば、「採用上の年齢差別」の是非について新しい結論が出されるかもしれない。

通年採用のアメリカでも企業は「若者」好き
今回の訴訟で注目されるのは、採用者の「若者びいき」に待ったをかけられるのかどうか、だ。

アメリカには日本のような「新卒一括採用」というシステムはなく、基本は通年採用だ。ポジションが空いたときに募集する仕組みだが、雇用機会均等委員会は、採用基準に「大学生」や「新卒者」「若者」などと書くことはADEAに違反するとの立場を示してきた。
とはいえアメリカでも、新卒者をターゲットにした採用活動はおなじみの光景だ。特にテクノロジー業界は1980年〜1990年代に生まれた「ミレニアル世代」をターゲットにする傾向にあり、
フェイスブックも2013年には弁護士枠の採用基準に「(ロースクール)07年卒か08年卒が望ましい」と掲げていたことをカリフォルニア州当局に問題視された。
訴訟の結果、フェイスブックは「何年卒」とは書かないことで合意したが、近年は採用基準に「デジタル・ネイティブ」(コンピューターやデジタル技術に慣れ親しんで育った人)という言葉を掲げる企業も出現している。これに対しても、「(中高年への)年齢差別」ではないかと問題視する声が挙がっている。
今回の訴訟は、中高年者にとって吉と出るのか凶と出るのか。その結果が「若者vs中高年者」という悲しい争いの引き金を引かないことを願うばかりだ。

http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/04/post-7478.php