LED照明は「非成長市場」の危機感 メーカー次の一手は



 東日本大震災後の省エネ意識の高まりや電気料金の上昇を背景に急成長したLED照明の市場が、曲がり角を迎えている。需要が一巡した上に、長寿命というメリットがあだとなって買い替え需要の伸びも見込めないのだ。メーカー各社は独自のサービスや商品展開で、成長力を取り戻そうと躍起になっている。(板東和正)

色はオーダーメードで

 「困ったことになった」。インテリア店「アクタス」(東京)の、あべの店(大阪市阿倍野区)担当者は頭を抱えていた。超高層ビルの「あべのハルカス」から、近くのビル内への移転を控えていた昨年のことだ。

 新店舗は以前より広くなるので、100個以上のLED照明が追加で必要だった。だが、当時の店舗で使用中のものは古い製品で同じ光色の照明は市販されていない。異なる色の照明が混在すると「インテリア店に重要な雰囲気を台無しにする恐れがあった」(アクタス関係者)。ただ、全部を新品に入れ替えるとコストは急増する。

 悩みを解決したのは、パナソニックの新技術だった。同社は昨年10月、店舗演出用LED照明のオーダーメード販売を始めていた。アクタスの求める古い製品の光色を再現し、192個を製造。今年3月の移転に間に合わせた。

 パナソニックの谷村一郎商品企画課課長は、「短期間で顧客が求める正確な色を提供できる技術を持つのはうちだけ」と自信を見せる。

将来への不安

 同社は昭和27年から蛍光灯の照明器具の販売を続けてきたが平成30年度中に完全に撤退し、店舗や住宅向けなどを全てLEDに切り替える。技術の向上やサービス強化も重要な取り組みだ。

 ただ、古いLED照明を使う顧客への気配りを欠かさないのは、それだけが理由ではない。背景には国内市場の成長鈍化への危機感がある。東日本大震災後の市場の急成長はピークを過ぎたとの見方は強い。

調査会社の富士経済は、工場など業務用のLED照明器具の国内市場は平成27年に4913億円だったのが、42年に4278億円に縮小すると予測している。価格は低下していき、照明器具の長寿命化で蛍光灯のようなペースでの買い替えも期待できない。

 そうした中、パナソニックは家庭用も含め30年度にLED照明の国内売上高2400億円を目指す。26年度実績より93億円増という控えめな目標だが、それすら「差別化戦略を充実させなければ達成できない」(関係者)とみられている。

明るさを求めて

 パナソニック以外でも、LED照明メーカーはそれぞれに活路を探っている。

 コイズミ照明(大阪市中央区)は、和傘や和紙など伝統工芸品の素材を用いた住宅用製品を販売。価格は3万1000〜10万円(税抜き)と割高だが、売り上げは好調という。

 同社広報室の川中睦(むつみ)室長は「インパクトのある商品開発を行わないと売り上げは伸びない」とみている。

 一般的な照明とは別に期待されているのが、植物栽培用だ。富士経済によると、国内市場はまだ10億円(27年)と小さいものの、42年には15倍以上に拡大する見通しだ。

 京セラは27年10月から、植物工場用を販売している。同社は店舗向けなども展開しているが「植物用がLED事業の牽引役になる」と期待する。

 自動車のヘッドライトも有望視されている。世界的に新車販売は好調で、当面は需要の伸びが期待される。パナソニックは、LEDを主力製品に使う欧州の自動車用ライト大手、ZKWグループ(オーストリア)の買収を検討。同事業への本格参入を狙っている。

 LED照明を活用した新規事業は今後も広がりを見せそうだ。

http://www.sankei.com/west/news/170522/wst1705220001-n1.html