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【10月26日 AFP】生物の遺伝コードに存在する小さくも致命的な誤りを「継ぎ目なく」修正できる、高精度の制御が可能な新たな分子機械を開発したとの研究結果が25日、発表された。

 この技術は、遺伝子編集の適用範囲を拡大し、精度を向上させるもので、遺伝性の失明、鎌状赤血球貧血、嚢胞(のうほう)性線維症やその他多くの消耗性疾患を引き起こす遺伝子変異の修復に道を開くものだ。

 米ハーバード大学(Harvard University)のデービッド・リュー(David Liu)氏率いる研究チームが開発した「一塩基編集」と呼ばれる手法では、DNAに直接「化学的な手術」を実行し、DNAのはしご型構造を切断することなく、問題のある部分を恒久的に修正する。

 英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された論文によると、病気のヒト細胞を用いた実験では、この技術が有効に機能することが示されたという。

 DNAは、個々の細胞がそれぞれに特化した仕事をどのように行うかに関する詳細な指示を細胞に与える。DNAを構成する「塩基」と呼ばれる4種類の化学物質はそれぞれ「A」「T」「G」「C」の文字で表され、必ずAとT、GとCがペア(塩基対)になるように配列されている。

 この中に1つの塩基対が誤った場所にある「遺伝子変異」が存在するだけで、物事は極めて悪い方向に進むことになる。

 すでに広く利用されているもう一つの遺伝子編集技術「CRISPR-Cas9」は通常、DNAの1つの塩基対を挿入したり削除したりするためにDNAのらせん状の鎖を切断する。

 だが、リュー氏の編集技術は、DNAの鎖を切らずに修正を行うことができる。「例えるなら、CRISPR-cas9ははさみで、一塩基編集は鉛筆のようなものだ」と説明し、それそれ向いている用途が異なると主張した。

 リュー氏のチームは2016年の画期的研究で、C-Gの塩基対をT-Aと交換する方法を示した。

 その後、バクテリアやトウモロコシ、マウスやヒトの胚に至るまでの生命体におけるいわゆる「点変異(1塩基置換)」を修正するため、この方法を用いた実験が世界中の研究所で実施され、好ましい結果が得られている。

 ところが、この方法では病気に関連することが知られているヒトの点変異の約15%しか修正できない。

■細胞を誘導する

 だが、それはこれまでの話だ。

 リュー氏によると、「アデニン塩基エディター(ABE)」と命名された最新技術は、A-T塩基対からG-C塩基対への変換を巧妙に誘導することで「既知の病原性点変異3万2000種の約半数を占めるタイプの変異」を修正できるという。

 ABEの「破棄して置換する」手順の重要なステップである「AからCへの変換」を行う酵素は自然界に存在しないため、研究チームはこの変換を誘発する酵素を一から作製しなければならなかった。新たな酵素の作製は初めての試みだったが成功した。

 この手順は、他の遺伝子編集技術に比べて成功率がはるかに高かっただけでなく、DNAの不要な重複や欠失などの副作用が実質的にゼロだった。

 ABEの治療可能性を証明するため、研究チームは実験室で、遺伝性ヘモクロマトーシス(HHC)の患者から細胞を分離した。HHCは過剰な鉄分の蓄積が原因で発症する深刻な疾患で、瀉血(しゃけつ)などによって治療する。

 ABEは、HHCの変異を恒久的に修正した。この実験結果は原理上、ABEが将来的にいかに有効に機能する可能性があるかを示すものとなった。

 今回の研究結果については、他の専門家らも称賛の声が上がっている。英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)のヘレン・オニール(Helen O'Neill)氏は、「4種類すべての塩基のペアをこれほど高い選択性をもって直接的に変換できることは、ゲノム編集のさらなる武器になる」とABEの可能性について述べ、「病気の研究と将来における病原性変異の修復において途方もない威力を発揮するに違いない」と期待を寄せた。(c)AFP/Marlowe HOOD

2017年10月26日 14:18 発信地:パリ/フランス