SSの創設者、ポール・ワトソン容疑者=国際手配=は8月28日、南極海での日本の調査捕鯨船に対する妨害船を今冬は派遣しないとする声明文を出した。

 SSが理由に挙げたのは資金不足に加え、日本側の監視体制の強化で妨害活動がしづらくなっているというものだ。
日本が衛星を使って妨害船の動きを捕捉。容易に調査捕鯨船に近づけなくなり、費用のかさむ直接の妨害行為から手を引くとしている。

 さらにSSは、日本で新たな法律が施行されたことも理由に挙げた。国際社会と連携してテロや組織犯罪に立ち向かうため、
共謀罪の構成要件を厳格化した「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法(7月11日施行)を指すとみられている。

 ただ、SSは2005(平成17)年から毎年、日本の調査捕鯨船に対し妨害活動を行い、
捕鯨船に向けて信号ロケットを発射したり薬品入りの瓶を投げつけたりし、さらには、スクリューにロープを絡ませるなど数々の過激な活動を繰り返してきた。
昨年からは高速の新型艇の派遣にも踏み切った。それだけに、関係者は宣言の真意を測りかねている。

 水産庁の担当者は「(SSの妨害中止宣言は)文字通りに受け止めることはできず、不気味だ」とし、
日本捕鯨協会の久保好事務局長(55)も「今までも裏切られたことがあった」と不信感をあらわにする。

■実はこの宣言に先立ち、変化の兆しはあった。

年は活動家の姿はほとんど見かけないという。9月3日の今季の鯨類初捕獲の際も妨害は一切なかった。関係者は「例年に比べると、あまりにも静かだ」と語る。

 この背景に、日本側の締め付けの強化があるとみられているのだ。

 法務省入国管理局や警察当局は2020年東京五輪・パラリンピックを控え、活動家の入国を警戒。
すでに昨年5月にノルウェー出身の女性活動家を、今年5月にもSSのフランス人主要活動家を、それぞれ水際で身柄を拘束して強制送還している。
 SSのサイト上には、太地への活動がしづらいことをうかがわせる内容も記されており、日本側の対策は一定程度、効いてきているのだろうか。

■国際世論の流れ変化も

 反捕鯨のアピール力が低下しているといった国際世論の流れの変化があるという見方もある。その一端が調査捕鯨に批判的な目を向け、
SSの拠点もある反捕鯨国オーストラリアの対応だ。

 オーストラリアの環境相は9月、国内の海岸でサメとの遭遇事故が増えていることと、クジラの生息数との因果関係を調べるように研究機関に指示した。
クジラが絶滅の危機にひんしている−とする根拠のない理由を反捕鯨の旗印に掲げるSSに対し、サメとの遭遇増加について、
沿岸でクジラが増え、そのクジラを捕食するサメが増えたのが要因とみて調査に乗り出すという。
 仮にクジラの増加が要因だと証明されれば、オーストラリアの反捕鯨の流れが揺らぐ可能性があり、SSの影響力低下は避けられないとみられる。

 さらに、南極海などで調査捕鯨を行う日本鯨類研究所(東京)がSSなどを相手取り米連邦地裁に起こしていた訴訟で、
昨年8月、SSとの間で、日本側の捕鯨船に対する妨害行為を永久に行わないことなどを柱とする合意に達したことも大きいとされる。

 国際的な反捕鯨の流れに変化が生じてきていると言え、今回の中止宣言に少なからず影響を与えているのではないか、とみる関係者は少なくない。
とはいえ、SSが資金不足をアピールして、さらなる世界からの援助を得ようとしているだけで、妨害中止は一時的なものでしかないとする見方もささやかれる。

 ワトソン容疑者は「クジラのために命をささげる」とたびたび公言しており、
水産庁の担当者は「今までと違う方法での妨害を模索しているのかもしれず、警戒感は変わらない」との姿勢を崩していない。

http://news.livedoor.com/article/detail/14099377/